第45話 魔力解放

 【封印開放リリース


 僕は鍵魔法をかける。

 それは魔王でもなければ、誰でもない。

 僕自身の中にある魔力を開放する号令だった。


 ふわりと僕の髪が靡く。

 本来僕の中で滞留を続ける魔力が溢れ出てきた。

 皮膚にある無数の魔力孔から魔力が湧き出て、淡く光を帯び始める。


 その様を見て、アストリアは息を呑んだ。


「すごい……。すごい、魔力だ……」


 普通、第1層で生きる種族が、これほどの魔力を体内にため込むことは難しい。

 不可能といってもいいだろう。

 だから、今僕が見せている魔力には理由がある。


「ユーリはね。ずっと側にいたのよ」


 エイリナ姫がお腹を押さえながら呟いた。

 傍らには助けた少女もいる。


「誰と?」


「魔王よ……」


 再びアストリアは息を呑んだ。


「知ってると思うけど、第1層は下層と比べて魔力が薄いわ。封印した魔王から漏れ出す魔力に浸かってるような状況よ」


「じゃあ、ユーリは――――」


「そう。ユーリはずっとその魔力を浴びている。一番近くでね。だけど、魔力が濃ければ濃いほど、世界に影響を及ぼす危険性がある。魔物しかり、そして今のこの状況しかりね。だから――――」


「ユーリはずっと鍵魔法を使って、その魔力を封印していた……」


「私はね、アストリア。姫勇者って呼ばれることに、正直コンプレックスを持っていた。姫勇者は所詮姫で勇者よ。本物の勇者ではないわ。でも、ユーリはきっと……」


「本物の勇者……」


「いえ……。それ以上ね。だって、ユーリは魔王を封印していたんじゃない……」




 ずっと……魔王と戦ってきたんだから…………。




『オオオオオオオオオオオオオオオオオオ……』


 その時、低い唸りを上げたのは、ゲヴァルド――だったものだ。

 すでに闇に取り込まれ、影も形もない。


 唯一あるのは、目だ。


 ゲヴァルドの赤黒くなった瞳だけが残されていた。


 僕の魔力に呼応したのだろう。

 何か怯えるように声を震わせる。

 もはや化け物となったゲヴァルドに向かって、僕は手を上げた。


「敵の目――――」



 【照準ロック】!!



 ジュンッ!

 僕はあらかじめ用意していた鉛玉を放つ。

 その出力は、【封印開放リリース】前とは比べものにならない。


 ほぼ可視不可能な速度で、ゲヴァルドだった化け物の瞳を射貫いた。


『ギャアアアアアアアアアアアアア!!』


 悲鳴を上げ、悶える。

 だが、僕は容赦しない。

 さらに鉛玉を【照準ロック】で飛ばす。


 たまらず黒の化け物は、呪唱した。


『ゼンシン――――」



 【シメロロック



 呪唱直後、鉛玉を次々と弾いていく。


「あの状態でも鍵魔法を使えるのか?」


 アストリアが驚く。


「ゲヴァルドの知識から学習したのかもしれない。ユーリもユーリだけど……。あの化け物もただ者じゃないわ」


 エイリナ姫は唇を噛む。


 さすがに【閉めろロック】がかかれば、【照準ロック】も通用しない。

 だが、開かないというなら、開けるまでだ。


「全身――――」



 【開けリリース



 僕は鍵魔法をかける。

 黒の化け物の鍵魔法を開いた。

 その瞬間から、再び【照準ロック】を使う。


 かけたのは、持っていたナイフだ。

 僕はそれを持ったまま魔法の推進力を生かして、黒の化け物に迫る。

 接敵すると、容赦なく切り裂いた。


『ひぎゃああああああああああああ!!』


 断末魔の悲鳴か……。

 そう思わせるほど、鋭い声が響く。

 無論、化け物も黙っていない。

 再び黒い剣を伸ばす。


 化け物に取り付く僕に迫った。


 僕は手を伸ばす。


「黒い剣――――」



 【開放リリース】!



 黒い剣は結合力を失って霧散した。

 僕はさらに切り刻む。

 その度に黒いどろりとした膿のようなものが飛び出す。

 同時に、切り刻むタイミングに合わせて短い悲鳴が聞こえてきだ。


「防御手段も、攻撃手段も失った……。もう大人しくするんだ」


 警告を加える。


 唯一人間らしい瞳は、何かを訴えかけるように僕を見つめる。

 すると、中からゲヴァルドが現れた。


「助けてくれ! お願いだ! オレが悪かった……」


「まだ意識があったんですね」


「ああ……。こいつも反省してるみたいだ! お前、そんな力があるなら、オレを助けることができるだろう」


「……わかりました。やってみましょう」


「もし助かったら、オレは自首するつもりだ。その時、親父の悪事もばらす。だから、お前も宮廷に戻してもらえるだろう」


「そうですか……」


「――――な~~~~~~~~んてな……」


 その瞬間、ゲヴァルド――――いや、黒い化け物の魔力が上がる。


「ユーリ、上だ」


 アストリアの声を聞いて、僕は気付いた。

 化け物から鎌首のようにもたげた頭が、僕を見ている。

 そこには先ほどの目があり、そして歪な顎門があった。


 口が開く……。


「すべて――――」



 【閉めろロック


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


本日はここまでです。

いよいよ明日はついに――――です!


ここまで読んだ皆様のご評価をお聞かせください。

★★★の評価をよろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る