第40話 聖霊の力を
アストリアとエイリナ――。
『
そのゲヴァルドは2人に向かって手をかざす。
直後現れたのは、巨大な黒剣であった。
それを槍のように伸ばして、アストリアとエイリナに襲いかかる。
2人はゲヴァルドが手をかざした時点で身構えていた。
攻撃の気配を感じたすぐ後、黒剣が自分の方に伸びてくる。
それぞれ左右に分かれて回避した。
だが、ゲヴァルドの攻撃は止まらない。
剣だと思っていたそれは、次に鞭のようにしなった。
狙ったのは、アストリアである。
「アストリア!!」
エイリナは叫ぶ。
「黙ってみてろ、姫勇者!! てめぇは後だ!!」
ゲヴァルドは笑った。
アストリアに鋭い黒の斬撃が迫る。
「風よ――――」
【
風の刃で薙ぎ払う。
ついに黒の斬撃は弾かれた。
それにゲヴァルドも瞠目する。
「この力……。
精霊との契約者もまた対応する属性魔法が、非常に強くなる傾向がある。
それ故のゲヴァルドの分析であったが、それは間違いであり、そして彼にゆっくりとその分析に耽る時間は残されていなかった。
「
エイリナは再び
弾帯を叩くと、弾みで弾丸が6つ飛び出してきた。
それを全て砲杖に込める。
魔力が圧縮された魔法弾。
そのすべてを砲杖の中に集めた。
言うまでもなく、膨大な魔力がエイリナに収束する。
これには、ゲヴァルドも目を大きく見開いた。
「チッ!!」
舌を打つ。
「悪いけどね。そんな姿になったあなたを更生する余地はないわ。せめて1発で仕留めてあげる……!」
瞬間、エイリナは銃把を引く。
【
紅蓮の炎が砲杖の先から撃ち出される。
まさしく炎は竜となり、黒くなったゲヴァルドを包んだ。
轟音が鳴り響く。
「ギャアアアアアアアアアアア!!」
ゲヴァルドの断末魔らしき
第7層に存在する竜種。
その竜ですら焼き尽くす事ができる高レベル魔法。
第1層では再現不可能な魔法である。
これで死ななければ、エイリナには打つ手がない。
ゲヴァルドの声が聞こえなくなる。
すると、エイリナは1度胸を撫で下ろした。
「エイリナ、今のは……」
「悪いわね、アストリア。こっちの不手際に付き合わせたみたいだわ」
エイリナはアストリアに事情を話す。
「あの黒いのが……。魔王の一部…………」
魔王、と聞いて、さすがのアストリアも驚いた。
宮廷の地下に魔王が封印されていることは、ユーリから聞き知っていた。
だが、まさかその魔王の一部と戦うことになるとは、夢にも思わなかったのだ。
「確証はないわ。ただあの黒い膿に似た塊が、魔王を封印した扉から漏れ出ていることは本当のことよ」
「だが、ヤツはどうして?」
アストリアが聞くと、お手上げとばかりにエイリナは手を広げる。
「それはこっちが聞きたいぐらいだわ。宮廷に帰って、このことを知らせないと……。全くこっちはそれどころじゃないのに……」
声が聞こえたんだよ……。
アストリアとエイリナは同時に振り返った。
直後、燃えさかる炎の中から黒剣が伸びる。
今度は虚を突かれた2人は、防御も回避する間もなく、剣の餌食になった。
2人の防具をあっさりと貫き、その肉を抉った。
「ぐっ……」
「そんな! 竜すら倒すのよ、今の魔法!!」
幸い2人とも傷は浅い。
一瞬身を捻って、回避したのだ。
だが、防具がなければ、胴は2つに切り裂かれていただろう。
とはいえ、出血が少ないわけではない。
「へぇ……。さすが姫勇者……。んで……、今思い出したぜ。あんた『
炎の中からゲヴァルドが現れる。
驚くべきは【
口元に歪んだ笑みを浮かべて、胸をはだけるような状態になった2人の乙女を見下ろした。
「あんた、何で?」
「簡単な話だ。オレが姫勇者やS級冒険者より強いってことだ」
「あんたの力の訳がないでしょ!」
「うるせぇ! オレがもらったんだ! ならオレのもんだろうが!!」
ゲヴァルドが叫ぶ。
その瞬間、黒剣の数が増える。
まるで多頭竜が鎌首をもたげるように広がると、アストリアとエイリナに迫った。
まさしく雨霰とばかりに、2人に降り注ぐ。
高速で迫る黒剣の軌道を見ながら、アストリアとエイリナは回避を続けた。
だが、それで精一杯だ。
負傷もしている。
反撃は難しく、2人はただ躱し続けるしかなかった。
けれど、これで終わる2人ではない。
ゲヴァルドの攻撃を回避しつつ、アストリアとエイリナは作戦を立てていた。
「エイリナ、魔法弾はあと何発だ」
「悪いけど、あと2発ってところね。これを出し尽くしても、あいつはやれないわ」
「じゃあ、私に預けてくれないか?」
「やるの?」
「任せてくれるなら」
「仕方ないわね……。大事に使ってよ」
回避しながら、エイリナはアストリアに残った弾を渡す。
すると、エイリナの方が立ち止まった。
腰に下げていた剣を取り出す。
迫ってきた黒剣をすべて薙ぎ払った。
「――――ッ!?」
ゲヴァルドは軽いショックを受ける。
S級冒険者のアストリアならいざ知らず、まさかエイリナにも弾かれるとは思っても見なかったのだ。
「これならどうだ!!」
ゲヴァルドの指向がエイリナに向く。
すべての黒剣をエイリナに向けると、八方から迫った。
対して、すべての道をふさがれても、エイリナの表情は変わらない。
大きく身体を捻ると、思いっきり振り抜いた。
その瞬間、黒剣が弾かれる。
すべてだ――――。
エイリナは鼻を鳴らす。
「姫勇者を舐めないでよね」
「くそ! 魔力だけかと思ったが、身体能力にも勇者としての才能があるのかよ!!」
ゲヴァルドは再び黒剣を伸ばす。
エイリナはそれを次々と弾いた。
完全にゲヴァルドの視界からアストリアが消える。
力は強くても、所詮は戦闘の素人だ。
けれども、ゲヴァルドの黒い衣を貫くのは、生半可な力では難しい。
「ならば、今一度使うしかない」
アストリアは2つの弾を切り裂いた。
溢れ出てきた魔力を吸い込む。
一瞬立ちくらみを起こす。
急激に多量の魔力を摂取したことによるものだ。
しかし、魔力は充実していく。
周囲を見渡し、人の気配がないか確認する。
そしてアストリアは大きく息を吸い込み、魔力を発露させた。
「風よ――――」
アストリアが掲げた瞬間、剣の先に暴風が渦巻いた。
その瞬間、巨大な風の剣が生まれる。
ゲヴァルドが事態に気付いた時には遅い。
アストリアは黒衣のゲヴァルドに向かって、聖霊の加護がついた剣を振り下ろした。
あの巨大ホブゴブリンを屠った聖霊魔法を炸裂させるのだった。
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★が200個超えました!
付けてくれた人がありがとうございます。
めちゃくちゃ嬉しいです(≧▽≦)
引き続き更新頑張りますね。
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』という作品をカクヨムでも更新してます。
だいたい文庫本2冊ぐらいの文量ですので、週末、または年始年末のお休み中にでも是非読んで下さい。
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