第31話 送られる称賛

 ようやく王都に戻ってきた。

 旅立ってまだ3日だというのに、ひどく懐かしい感じがする。

 1年間ぐらい戦っていたような気分だ。


 僕たちは早速ギルドに向かう。

 ダンジョンで起こったことを報告するのは、冒険者の義務だ。

 それにアスキンとのこともある。

 ギルドに対して、厳格な処罰を求めるつもりだと、アストリアは語気を荒くした。


 ただ一個人が組織を相手取るのって、結構勇気がいる。

 アストリアはともかく、僕は少し緊張した面持ちでギルドをくぐった。


「すみませんでした!!」


 いきなりギルドに声が響いた。

 マーレイさんだ。

 僕たちを見つけるなり、受付から飛び出すと、その場で正座して深々と頭を下げた。


 僕は当然戸惑う。

 周囲の冒険者たちもまた困惑した様子だ。

 その最中にあって、堂々としていたのは、アストリアだけだった。


「どうやら、すでに報告は受けているようだな」


「先ほど、ギルドの調査隊から報告がありました。あと、それと天翼族の方がこちらに立ち寄られて……」


「天翼族……?」


「ユーリさんとアストリアさんが、ホブゴブリンを討伐した瞬間も見届けたと言っていました。加えて、2人の証言は天翼族のルナミルが保証する、と」


 間違いなくルナだ。

 先に王都に戻ってきて、ギルドに立ち寄ったのだろう。


 確かに……。

 アストリアがいるとはいえ、僕たちだけでホブゴブリンを討伐したと言っても誰も信じてはくれないかもしれない。

 だから、ギルドに寄って、わざわざ証言してくれたんだ。


「クエストの件、本当に申し訳ありません。アスキンさんとはトラブルがあったばかりなのに、こうした事態は予測できたはずです。こっちのチェックが甘かったとしか言いようがありません」


「だな――。それで、責任者はいるか?」


「今は現地の調査隊の指揮に当たっています。後日改めて謝罪させていただきたいと」


「そうか。それは仕方ないな」


「すみません……」


 マーレイさんは、タニシのように小さくなる。

 ちょっと可哀想に思えるけど、ギルドのチェックが甘かったというなら、その通りなのだろう。


 クエストを受ける度に、殺人鬼が紛れているようでは、冒険者稼業も成り立たない。

 ギルドの信用もがた落ちだ。

 ここで甘く収めれば、また同じことの繰り返しになる。


 僕もまた平だけど、組織の人間だった。

 甘い沙汰を繰り返しては、失敗は続く。

 たとえ目の前の人間が責任者じゃなくても、ここは厳格に対応しないとダメだ。


「主犯格のアスキンさん、いえ――アスキンとその仲間の冒険者は、ギルドで責任を持って対処させていただきます」


「その必要はない」


 アストリアは冷たく声を響かせる。

 腰に下げた小袋から、指輪型の【守護印アミュレット】を取り出した。


「それは――――! もしかして、アスキンさんの?」


「やはり知っていたか」


「はい。魔法遮断性能が高い【守護印アミュレット】を売っている魔導具屋を紹介してくれ、と言われまして。あ――――」


「その時に気付いてほしかったな。その【守護印アミュレット】の使い道を……」


「すみません。すみません。すみません。すみません。すみません。すみません」


 アストリアは咎めるように睨み付ける。

 マーレイさんは再び何度も頭を下げて謝った。


「これがホブゴブリンのお腹から出てきた。おそらくだが、アスキンは生きていまい」


「それはつまり、B級冒険者のアスキンさんが手も足も出なかったホブゴブリンを、アストリアさんが倒したということですか?」


 マーレイさんの言葉に、ギルドはどよめく。


「さすがS級冒険者……」

「これが『円卓アヴァロン』の一員の実力か」

「すげぇ……」


 皆がアストリアに称賛を向ける中、凜と言葉を放ったのもアストリアだった。


「違うな……」


「え? アストリアさんが仕留めたんじゃ?」


 パチパチとマーレイさんは目を瞬かせる。


「君たちは何を聞いていた? ここに来た天翼族はこう言ったのだろう? 私とこのユーリがホブゴブリンを討ち払ったと……」


「あ……」


「君たちにとって信じがたい事かも知れないが、事実だ。おそらく私1人では倒せなかっただろう。それほど異質なホブゴブリンだった。だが、この勝利は私とユーリで力を合わせて掴み取ったものだ。称賛を受けるのは、冒険者としての誉れだろう。しかし、称賛を受けるのは私だけではない。我らパーティーに送ってくれないだろうか」


 アストリアは高々と言葉を響かせた。

 まるで一騎打ちを申し出る武将のようにカッコいい。


 冒険者たちはその言葉を飲み込むかどうか迷っている様子だった。

 だが、魔法の祖といわれる天翼族と、S級冒険者が揃って、新人冒険者である僕の活躍を認めているのだ。

 それを無下に否定する者は、誰もいなかった。


 呆然とする周囲の反応を見かねて、アストリアはさらに口上を続ける。


「それにだ。私の仲間の初クエストだ。残念ながら未達になってしまったが、私でもこれほど初陣は派手ではなかった。どうかみんなで、それを祝ってやってほしい」


 パチパチ……。


 小さな拍手の音が聞こえる。

 見ると、マーレイさんが立ち上がって、手を叩いていた。

 僕と目線が合うと、小さな童顔の受付嬢は「おめでとうございます」とばかりに微笑む。


「ありがとな、坊主」

「オレの仲間は、あのホブゴブリンにやられたんだ」

「ありがとう! 仲間の仇を取ってくれて」

「新人、やるじゃねぇか!」

「馬鹿にして悪かったな」


 そのマーレイさんのパフォーマンスに冒険者も乗っかる。


 次第に拍手は多くなり、ギルドの玄関に響かせた。

 生憎と万雷の拍手とまではいかなかったけど、周囲の冒険者たちが僕を認めてくれたように思えて、素直に嬉しかった。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


本日はもう1本上げます!

よろしくお願いします。

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