第28話 カッコよかった

昨日pvが3000件を突破してました。

朝起きてひっくり返ったw

ありがとうございます。引き続き頑張ります!


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


 天使……??


 薄く目を開けると、少女が泣いていた。

 生憎と翼はなかったけれど、綺麗な銀髪と緑色の瞳が揺れている。

 その瞳からポタポタと涙が落ちていたけど、それすら美しいと思ってしまった。


 死んでしまったのかな、と思ったけど、そうではない。


 少女の頬に手を伸ばすと、確かな感触があり、涙はとても熱かった。


「ユーリ!!」


 アストリアは叫ぶ。


 そこでようやく僕の意識は、覚醒した。


「アストリア? なんで泣いているんですか?」


「バカ! ユーリのバカ! 君が私に無茶を強要したからじゃないか!?」


 ああ……。

 なんとなく思い出してきた。

 僕はホブゴブリンを穴に落として、僕も落ちて……。

 その時、アストリアの聖剣の力を浴びたんだ。


 僕は咄嗟に全身を【閉めろロック】させて、それで――――。


「そうか。うまくいったんだ……」


「確かにうまくいった……。でも、あまりにも危険すぎるぞ。私の聖剣の出力が鍵魔法の効果を上回ったらどうするんだ?」


「でも、アストリアは撃ってくれた」


「それは……」


「ありがとうございます、アストリア。僕を信じてくれて」


 アストリアの瞳の中の僕は笑った。

 少し頬を赤くしたS級冒険者の少女は、うっと身を引く。

 その表情のまま明後日の方向を見て、「バカ」と小さく罵倒する。


 先ほどの美しい少女は、可愛い少女に変わっていた。


 その姿を見て、また笑ったのは、僕だけではない。


「お二人とも本当に仲がいいんですね。妬けてしまいますわ」


 ルナミルさんだ。

 怪我の部分は変わらず痛々しいが、僕に向かって笑顔を向けている。


 ところで妬けてって、どういうこと?


「ですが、アストリアさんはともかく……。ホブゴブリンと戦った手並み、出力が制限されているとはいえ、聖剣の一撃を耐えたあの魔法……。ユーリさん、あなたは何者ですか?」


「何者って言われても……」


 僕は思わずアストリアと目を合わせる。

 何故か笑気がこみ上げてきて、アストリアと同じく笑ってしまった。


「冒険者ですよ。そして、アストリアの仲間です」


「…………そう。そうですか? わかりました」


 こうして僕たちはルナミルさんを連れて、第1層へと戻っていった。





 ダンジョンの入口に辿り着くと、朝だった。

 どうやら僕たちは夜通し戦っていたらしい。

 ダンジョンの中だと時間感覚が狂う。

 まさかいきなり朝日を拝めるとは思わなかった。


 ダンジョンの近くにある救護施設に駆け込み、ルナミルさんを連れて行く。

 かなり危ない状態だったらしいけど、僕の処置が良かったらしい。

 ついでに言うと、鍵魔法で止血したというと、治療師の人はとても驚いていた。


 しばらく付き添っていると、王国の正規兵たちがぞろぞろとやってくる。

 ルナミルさんを迎えに来たのだ。


「どうやら、ここでお別れのようです。短い間でしたが、お二人にはお世話になりました」


 ルナミルさんは丁寧に頭を下げる。

 王国の正規兵の前で天翼族の人にそんなことをされて、僕は思わず恐縮してしまった。


「お二人は下層を目指すのですか?」


「はい」


「でしたら、もし第7層に来られた際には、わたくしの名前を出して下さい。それなりにヽヽヽヽヽ使える名前だと思うので」


「それは一体どういうことですか、ルナミルさん?」


「ルナ……とお呼びいただいて結構ですよ、ユーリヽヽヽ


「ル…………ナ………………?」


「親しい友達はそう呼びますの」


「親しい……」


 と聞いて、僕は思わず頬を赤らめる。

 ジト目で僕のことを見ていたのは、アストリアだ。


「ならば、私も呼ばせてもらおう。天翼族のルナ……」


「別に構わないですよ、アストリアヽヽヽヽヽ。ここでの用事が済んだら、第7層に帰還する予定です。わたくしはあなた方と違って、現住種族なので第7層までなんの制約もなく帰還が可能ですから、多分追い抜いてしまうでしょう。是非第7層でお目にかかりたいですね」


「はい。是非――」


 というと、ルナの方から手を差し出してきた。

 だが、握ったのはアストリアだ。

 お互いムッと睨み付ける。

 何か火花のようなものが見えた。


 こ、怖い……。


 僕は2人が握った手の上に、自分の手を置いた。


 別れの挨拶を済ませると、サーゲイを引く客車に乗って、王都へと走り出す。

 客車の窓を開けると、ルナは手を振り、僕たちもそれに答えた。


「天翼族の人たちって、結構人族を見下してるイメージがあったんですけど、ルナはそんなことなかったですね」


「ユーリ……」


 すると、突然アストリアは真剣な表情になる。


「ダンジョンでの作戦のことだが……」


「は、はい……」


「ルナの前では言わなかったが、出来ればああいう作戦は控えてほしい。できれば、仲間に向かって、剣を向けたくないのだ……」


「あ…………」


 そうか。

 アストリアは仲間に裏切られて……。

 まだ彼女の中で、仲間に剣を向けることへの抵抗があるんだな。


「すみません。僕、勝手な真似を……」


 頭を垂れる僕に、アストリアはポンと手を置いた。

 ざわり、と音を立ててなで始める。


「あ、アストリア……」


「これから改めてくれればいい。あと、もう1つ言わなければならないことがある」


「な、なんでしょうか? あと、頭を撫でないで。その恥ずかしいというか」


 ……頭が上げられないというか。



「カッコ良かった……」



「え?」


「それだけだ。さあ、私たちも王都に戻ろう」


 もうその時にアストリアは、朝一番の王都行きの乗り合い馬車へと向かっていた。


 カッコ良かった――。

 そう言った時の彼女はどんな顔をしていたのだろう。

 その確認もできないまま、僕は王都へと戻る帰路についた。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


ホブゴブリン編これにて終わりです。

そして、王都に帰ったユーリが待ち受けるものは?

いよいよ最終章へと向かっていきます。

よろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る