第20話 守護印

昨日もたくさんの方にお読みいただき、PVも過去最高を更新しました。

そして驚くべき事に、週間の異世界ランキングで57位、日間では46位を取ることができました。


カクヨムをやってきて、初めての順位で驚いております。


読んでいただいた読者、★★★を付けてくれた読者の方ありがとうございます。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~




 弓を取り落とし、悶え苦しんだのはアスキンだ。

 片目を押さえながら、蹲る。


「痛てぇぇぇぇぇえええ!!」


 アスキンは泣き叫んだ。


 なんだ、と冒険者の間に動揺が広がる。

 それは戦闘を傍観していたバーマンさんも一緒だ。


 僕はそれを見逃さなかった。


「敵の目――――」



 【照準ロック】!



 次々と指弾を放つ。

 矢を躱しながら集めていた小石は、吸い込まれるように冒険者たちの目を抉った。


 たちまちあちこちから悲鳴が上がる。

 すかさず僕はアストリアさんに近づくと、冒険者を蹴り飛ばし奪取した。


「てめぇ……! 何をした!!」


「何をしたって、鍵魔法ですよ」


「今のはどう見ても、鍵魔法じゃないだろ!?」


「今のも立派な鍵魔法です。応用はしてますけどね」


 そもそも鍵魔法の原理は、物と物を固着したり、物と物を離脱させたりする魔法だ。

 魔力を込めることさえできれば、指示した対象に向かっていく。

 今の【照準ロック】は、そういう類いの応用技だ。


「ふざけやがって……」


「ふざけているのは、あなたです。なんでそうまでして、アストリアさんにこだわるんですか!! 人を欺いてまで!」


「んなもん決まってるだろ!! S級冒険者は冒険者の王様なんだよ。こいつ1人に任せておけば、第7層ぐらいまで楽々行ける。そしたら、オレはA級冒険者の仲間入りだ」


 口についた涎が糸を引く。

 恍惚とした瞳を暗い天井に向けながら、アスキンは続けて喚いた。


「小僧! お前は知らないだろ!! ランク1つ上がるだけで、見える景色が違う。地位や名誉、人から向けられる視線。もちろん、受け取る金だって違う。何もかもだ。想像できるか。その女を手に入れるだけで、人生が一変するんだよ」


「アスキンの口――――」



 【照準ロック】!



 僕は反射的に指弾を飛ばしていた。

 まるで水車のように動いていたアスキンの唇に直撃する。

 歯が折れ、さらに石が喉に入ったのか、声なき悲鳴を上げて、激しくむせ返っていた。


「もう喋らないで下さい……。あなたは」


 この人にわかるわけがない。

 襤褸を纏って物乞いをし、必死に生き抜いてきた彼女の孤独を。

 仮面が取れた時の救われた彼女の歓喜を。

 僕が冒険者になると聞いて流した涙を。


「アストリアさんがどんな思いで、仲間を救助しようとしているか、あんたには絶対にわからない!!」


 それらの意味をきっとこの人は考えない。

 考えてもほしくない。


「僕はもう彼女を孤独にしたりしない。だから守る! 絶対に! アストリアさんが、仲間と再会するまで!! 絶対に守ってみせる!!」


「るっせぇぇえぇえぇえぇえぇえええ!!」


 アスキンは回復魔法で口をある程度回復させると、走る。

 僕との距離を一気に詰め寄ってきた。

 逆上して忘れたのか。

 近づけば、僕には鍵魔法がある。


「全身――――」


「バーーーーーーーカ! そうそう何度も動けなくなってたまるか!! 対策は取ってきてるんだよ!! こっちはな!!」


 アスキンは片手で大曲刀を振り上げながら、もう片方の手を僕の方に掲げて見せた。

 そこには指輪が嵌まっている。


 おそらく【守護印アミュレット】だ。

 魔法封印用の【守護印アミュレット】をどこかに装備しているのだろう。

 如何に鍵魔法が万能でも魔法は魔法だ。

 魔法耐性の高い【守護印アミュレット】を装備されれば、効果は遮断される。


 つまり、僕の鍵魔法が効かない。


「死ねッッッッッ!! 小僧――――!!」



 【開放リリース】!



 その瞬間、僕がアスキンに向かって弾け飛んだ。

 一気に距離を詰めるという速度じゃない。

 もはや人間砲弾といった速度で、アスキンに迫る。


「なっ――――!!」


 【照準ロック】が対象に近づくなら、【開放リリース】は離れる魔法だ。

 僕は地面に向けて、【開放リリース】を放つことによって、自分を砲弾代わりにして突撃したのだ。


 その速度はなかなかのものだ。


 アスキンに見えたのは、僕の頭ぐらいだろう。

 反応できず、僕たちは激突する。


「がはっ!!」


 治ったばかりのアスキンの口に、僕の頭突きが当たる。

 さすがに僕の方にも衝撃があったが、アスキンほどじゃない。

 くらっと意識が切れかけたが、すぐに立て直す。

 一方、アスキンはよろけていた。

 視線がまだ定まっていない。


 その好機を僕は見逃さなかった。


 アストリアさんに教えてもらったナイフが閃く。

 その瞬間、鮮血が散った。

 アスキンは大曲刀を取り落とす。

 同時に、ぼとりとアスキンの手首がダンジョンの地面に転がった。


「ぎゃああああああああああああああああ!!」


 耳障りな悲鳴を上げる。

 手首があった付近を必死に圧迫しながら、よろめく。

 トトトと千鳥足になると、そのまま後退する。

 ダンジョンの崖の端に足をかけると、そのまま躊躇なく落下した。


 再び遠く悲鳴を響かせ、アスキンはダンジョンの闇に消える。


 僕はそれを見送った。

 自分でも驚くほど、心臓が冷たい。

 翻ると、残っていた冒険者が「おお……」とどよめいた。


「馬鹿な、アスキンさん……」

「新人がやっただと」

「嘘だろ!」

「ひっ! オレは! オレは悪くないぞ!!」


 リーダーを亡くした冒険者たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 バーマンさんも荷車を置き、すでに消えていた。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


すみません。

体調不良で、今日はこの1話だけです。

今日は安静にして、明日からまた複数投稿できるように頑張ります!

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