第19話 迫る悪意
あれ?
えっと……。なんだっけ?
視界がぼやける。
何も考えられない。
確か僕、ゴブリンをやっつけて、その後ダンジョンの中で野宿することになったんだ。
ご飯を食べて、バーマンさんの秘蔵の紅茶を飲んで……。
それでえっと……。
なんでしたっけ、アストリアさん?
あれ? アストリアさん、もう寝てる。
疲れたのかな?
寝息が聞こえる。
いつも綺麗だけど、寝顔もかわいいな。
いつまでも見たくなる。
僕も寝ようかな。
でも、誰か夜番に立たないと危険なんじゃ。
魔物は夜の方が活動的だっていうし。
いや、そもそもダンジョンに昼も夜もあるのだろうか。
ああ……。目の前が真っ暗だ。
とうとう僕は眠ってしまったらしい。
気持ちいい。
今日は長い距離を歩いたし、色々あった。
きっと疲れてるんだ。
「…………な……」
あれ?
人の声が聞こえる。
バーマンさん?
いや、違う。
別の人だ。
でも、何か聞き覚えが……。
「うまくやったな」
「あははは……。これぐらいお安い御用だよ。あんたと私の仲じゃないか、アスキン」
アスキン?
あ。そうだ。
この声……。
ギルドで僕と模擬試合をした。
「へっ! ぐっすり眠ってやがる。馬鹿なヤツめ! B級冒険者を舐めるからこうなるんだよ」
「死体はどうするんだ? バレたらギルドがうるさいだろ?」
「最近暴れ回ってるホブゴブリンにやられたってことにすればいいさ」
馬鹿……?
舐める……?
死体……?
ホブゴブリン……?
一体何を言ってるんだ、この人たちは。
バーマンさん、あなた一体?
「さて。眠った状態じゃ。お得意の鍵魔法は使えないだろう。オレを虚仮にしたこと! ここで購わせてやる! あばよ!!」
アスキンが大曲刀を抜く音が聞こえる。
まずい!
攻撃される。
起きろ、僕!!
くそ!
この眠気……。
薬か。
なら――――。
「眠り――――」
【
僕は眠ることを封印する。
その瞬間、身体が一気に覚醒した。
パチリと瞼を開ける。
そこに立っていたのは、やはりギルドで相対したアスキンだった。
大上段に構えた大曲刀が、鈍く光る。
「全身――――」
【
全身を引き締める。
ギィンと甲高い音を響かせ、僕の身体は大曲刀を跳ね返した。
僕はすぐに全身を【
「チッ! 起きてやがったのか!?」
アスキンは舌打ちする。
横でバーマンさんも驚いていた。
「そんな! 魔物用の睡眠薬だぞ!!」
そんな2人を横目に、僕は立ち上がる。
アストリアさんに呼びかけた。
だが反応はない。
完全に眠ってる。
僕は“眠り”を【
しかし、薄暗いダンジョンの中で何かが閃いた。
僕は反射的に手を引っ込める。
ビィンと側の地面に矢が刺さっていた。
ダンジョンの薄暗い影から冒険者が現れる。
その手には弓が装備されていた。
しかも、1人じゃない。
僕が気付いた直後、複数の光が閃いた。
今度は数が多い。
まずい。
アストリアさんにも当たる……。
その瞬間だった。
かすかにアストリアさんの口元が動いたように見えた。
だが、その前に僕は呪唱していた。
「全身――――」
【
アストリアさんに鍵魔法をかける。
その暇しかなかった。
僕はその場から離れて回避したが、すべては避けきれない。
「ぐっ!!」
僕は顔を顰めた。
幸いにも腕をかすった程度だ。
しかも利き腕とは反対。
でも、転んだ時の擦り傷より痛い。
焼けるように痛い。
それでも痛みを堪えて、僕は戦況を確認する。
バーマンさんを入れて計7人――。
やや僕から距離を置いて、睨んでいる。
そこから動かない。
弱ったな……。
もう鍵魔法の弱点に気付いたのか。
「鍵魔法の効力有効範囲は、30セル――ちょうどオレの二の腕の長さぐらいだ。つまり、お前に接近しなければ、単なる新人冒険者だってことだろ」
当たりだ。
本来鍵魔法は、金庫や宝箱に施錠したり、解錠したりする魔法だ。
元々遠距離用にできていない。
相手が近づかないと、効果はでない。
そもそも鍵魔法は戦闘用の魔法じゃない。
僕が
すると、冒険者達は矢を向けた。
僕は全身を【
「動くなよ、小僧。お前の彼女がどうなっても知らないぞ」
見ると、いつの間にかアストリアさんは虜になっていた。
他の冒険者に抱え上げられている。
瞼を閉じ、寝息こそを聞こえないが寝入っているように見えた。
そもそも今、僕の【
アスキンが指示すると、冒険者の1人がアストリアさんの頬に向け、ナイフを向ける。
「無駄だ……。今、アストリアさんは【
「ああ……。わかってる。だが、毒ならどうだ? このナイフについた毒を、この女の体内に入れれば、どうなると思う?」
アスキンは蛇のように笑った。
全身への鍵魔法は、外側の皮膚や筋肉を硬直させる。
故に内臓は今も動いている。
そこまで【
アスキンの指摘するとおり、もし今の状態で毒が体内に入れば、通常通り毒が回ることになる。
僕は息を飲む。
そこまで鍵魔法を研究してきたのか。
いや、これが上位の冒険者なのかもしれない。
多分このアスキンという冒険者は、他にも似たようなことをしてきたのだろう。
言わば、人殺しのプロだ。
その中で培った技術を、分析力。
魂こそ腐っていても、人を罠にかけ殺める力は、僕より遥かに上なのだろう。
「その反応……。やはり毒は回るようだな。くくく……。やはり素人だな。たとえ事実でも、そこは嘘を吐いてでも否定するところだぜ、小僧」
「ぐっ! 卑怯だぞ!」
僕は叫ばずにはいられなかった。
しかし、アスキンは楽しそうに顔を歪める。
「それはお前の方だろ? 素人のくせにS級冒険者に取り入りやがって」
「取り入ったんじゃない! 僕はアストリアさんにスカウトされたんだ」
「お前みたいな素人をなんでスカウトするんだよ。ちょっと魔法を囓ったぐらいで調子に乗るんじゃねぇ」
アスキンは手を上げる。
すると、冒険者たちは弓弦を引き絞った。
「動くなって言いたいところだけど、動くことは許してやるよ。ただし鍵魔法は使うな。使った瞬間、S級冒険者様はあの世行きだぜ」
手が下がる。
その瞬間、矢が放たれた。
「全身――――」
反射的に鍵魔法を使いそうになる。
ダメだ。アストリアさんを助けることが先決だ。
僕は矢をかわすことに集中する。
なんてことはない。
アストリアさんと訓練した時と比べれば。
「ほう……。やるねぇ。だが、その猿芸いつまで続くかね」
アスキンはゲラゲラと笑った。
僕はなるべく身を低くしながら、とにかく動き回る。
ゴロゴロと転がり、あるいは這うように矢を躱す。
自分の身体や衣服に土や泥が付く。
「身体が泥だらけだぜ! なんだよ、小僧まだ泥遊びが忘れられないのか?」
アスキンは大口を開けて笑った。
僕は無視して、矢を躱し続ける。
「しぶてねぇな! おい、オレに貸せ!!」
しびれを切らしたアスキンが仲間の弓を奪い取る。
弓ってのはこう使うんだよ、とばかりに、弦を絞った。
一瞬矢の雨が止む。
ここだ……。
「アスキンの目――――」
【
「ひぎゃあああああああ!!」
その瞬間、悲鳴が上がった。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
体調不良のため、今日はここまでです。
いつも通り3話を出せずにすまねぇ……。
しばらく、2話か1話投稿になるかもですが、
毎日何かしら投稿はしようと思っているので、応援よろしくお願いします。
カクヨムコン6に応募しております。
もし良かったら、作品フォロー、★★★を入れていただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。
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