第18話 国王クリュシュ

体調不良で朝の更新ができませんでした……。

でも、なんとか昼と夜だけでも……(がくっ)


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


 真っ赤な絨毯の上で、内大臣ドラヴァン・フォーン・ディケイラは膝を突いていた。


 周りは国旗を掲げた近衛たち。

 正面に盾と聖杯が描かれた国章が大きく掲げられている。

 その下で、玉座に座っているのはこの国の王だ。


 クリュシュ・ゾル・ムスタリフ。

 第87代ムスタリフ王国国王である。


 クリッとした団栗眼。

 綿を彷彿とさせるモコモコした白髭。

 上背はあまりないものの、今でも玉座の上でピンと背筋を立てて座っている。


 そのクリュシュは、先頃起きた地下の封印の件について内大臣から報告を受けていた。


「――――以上が顛末にございます」


 内大臣は軽やかな口調で報告を告げた。


「うむ。ご苦労だった。そなたの息子ゲヴァルドといったか、新人とは思えぬ良き働きをしているようだな」


 国王は頷く。

 周りで聞いていた近衛の眉が、ピクリと動いた。

 その機微に気付かぬまま、2人の話は続く。


「ありがとうございます、陛下。不肖の倅ながら、何とかお務めを果たしておるようです」


「うむ。だが、お主の息子が怪我をしたという報告を聞いたが、大丈夫か?」


 国王が口を開くと、そこまで笑みを浮かべていたドラヴァンは逆に口を結んだ。

 王の言葉を賜りつつ、周囲の近衛の方に視線を向ける。

 ゲヴァルドの傷に関しては、報告していなかった。

 近衛の誰かが王に漏らしたのだろう。


「前任者――確かユーリと言ったか。かの者がいた時には、こんなことはなかった。彼を呼び戻してはどうかな?」


「そ、それには及びません。怪我も大したことはありません。むしろ名誉の負傷かと」


「そなたの息子が大役を務めているのは理解しておる。だが、新人の鍵師が唐突に魔王の封印の任に就くのは、例のないことだ。別に余は、そなたの息子から仕事を取り上げようというわけではない。ユーリをそなたの息子の指南役にしてはどうだろうか?」


 おお、と言うように、聞いていた近衛の一部が口を開く。

 一方ドラヴァンとしては面白くない話だ。

 建前としては、王の話を熱心に聞く振りをしながら、内心では苦虫を噛むような思いで聞いていた。


「陛下の献策、実に見事だと下臣は考えます」


「ふむ」


「ですが、陛下。実はお耳に入れていないことがありまして」


 ドラヴァンはユーリが予算の一部を横領していた疑惑があることを、ここで初めて明かした。


「誠か……」


「先日、ヤツの屋敷にあるものを片っ端から接収して、証拠を探しているところです。時間の問題かと……」


「信じられぬな」


 国王は吐息を漏らし、モコモコの白髭を撫でた。


「心中お察しいたします。ですが、ヤツめはかなり甘い汁を啜っていたようです。ばれないと思っていたのでしょう。今期の予算として、1000万ルドを要求してきました」


「い、1000万ルド。小さな公共工事並ではないか?」


「はい。一部門が抱える予算としては、あまりに膨大です。もちろん突っぱねました。そこから調べたところ、ヤツが予算を横領している疑惑が出てきたのです」


「ふむ……」


「魔王の封印は、国民を守ることと同様に我らに課された使命です。そのような事業を盾にし、多額の予算を請求、そして横領するとはなんとも嘆かわしい。国民の血税をなんと考えておるのか。これまでの功績があったからこそ、放逐しましたが、今思えば縛り首にしてやれば良かったです」


 最後にゲヴァルドは首を絞めるようなパフォーマンスを見せ、国王に訴えた。

 その国王は白髭をなで続けている。

 団栗眼は少々悲しげに見えた。


「嘆かわしいことだな。エイリナが聞いたら、なんと思うか?」


「エイリナ……? かの『姫勇者』様の名前が、何故ここで?」


「エイリナはあのユーリという宮廷鍵師を非常に高く買っていた。何度か彼の話を聞かせてもらったものだ。とても優秀な宮廷鍵師だと……」


「チッ!」


「どうした内大臣……」


「いえ。何でもありません。……ところで王よ。そろそろ謁見時間が過ぎている頃かと。後ろに控えている者もおります故」


「そうであったな。ゲヴァルド、報告ご苦労だった」


「はっ……」


 ドラヴァンが大人しく謁見の間を辞した。

 待合いの家臣に向かって、ふんと鼻息を漏らしながら、足早に去っていく。

 宮廷の長い廊下に出ると、ドラヴァンは爪を噛みながら速度をさらに上げた。


「くそっ! あの小僧! 『姫勇者』とも繋がっていたのか。あの日和見こくおうはなんとかなるが、『姫勇者』はまずい。……こうなっては、横領の証拠を偽造してでも――――――」



 ゴォォォォオオオオンンンンン!!



 宮廷が大きく揺れる。

 窓がバリバリと音を立て、一部は割れて砕け散った。

 あちこちから悲鳴が聞こえ、給仕の女が部屋から飛び出してくる。


 地下から突き上げられるような揺れ。

 ドラヴァンはハッとなって下を向いた。


「くそっ! 馬鹿息子め!! 全然封印できていないではないか!!」


 吐き捨てるのだった。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


昨日もたくさんの方にお読みいただきありがとうございます。

この作品では初めて1日のpv数が1000件をこえました。

本日もよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る