第17話 初陣
ダンジョンの中は薄暗かった。
それでも松明を焚いたり、光魔法で辺りを照らす程でもない。
普通に歩く分には、問題ない明るさだ。
洞窟のあちこちには
感覚としては、陽の当たりにいく鬱蒼と茂った森の中を歩いているのに似ている。
道幅は広く、天井も高い。ただただ自然にできた巨大な穴に終始僕は圧倒されていた。
「第2層までどれぐらいかかるんですか?」
「何もなければ、3日という距離だよ」
「3日? そんなにかかるんですか?」
僕は思わず声を上げてしまった。
バーマンさんは「あはははは」と笑い声を上げる。
「新人の冒険者はみんなそう言うよね。下層ってみんなが思い描くよりもずっと地下にあるんだよ。何せ1つの世界の裏側にあるんだから」
驚いていると、唐突に扇動するアストリアさんが止まった。
サーゲイに荷物を引かせていたバーマンさんも、止まるように手綱を握る。
僕は前方を見つめたが、特に何もない。
静かだけど、むしろそれが不気味だった。
「アストリア様、何か…………」
「少々厄介な通路だと思ってな」
アストリアさんの視線を追うと、どうやら壁や天井にできた穴が気になっているらしい。
子どもぐらいなら通れる小さな穴だ。
一見、何の変哲もないように見える。
「穴の大きさが小さすぎる。子どもが通れても、大人は通れない」
あ……。そうか。
「子どもがダンジョンにいるわけないですからね」
アストリアさんが言いたいことが、僕にはわかった。
続けざまにアストリアさんは、声を張りあげる。
「出てこい!」
すると、穴の中で何かが閃いた。
真っ直ぐ何かが射出される。
向かった先にあったのは、バーマンさんだ。
「危ない!!」
「え??」
「右二の腕――――」
【
僕は利き手とは逆の二の腕をロックする。
バーマンさんの前に回り込むと、二の腕を振るう。
飛んできたのは矢だ。
それを跳ね返した。
「大丈夫ですか、バーマンさん」
「あ、ああ……。君こそ矢が当たって大丈夫だったのかい?」
「大丈夫です。【
「え? そんなデタラメな……」
「それよりも囲まれてませんか、アストリアさん」
「良い勘をしてるね。ここはゴブリンの巣だ」
アストリアさんの言葉に応えるように、小さな穴から次々とゴブリンが現れる。
10、いや20はいるかもしれない。
魔物の中でも、体力や筋力的にも人族よりも同等かそれ以下だけど、これだけ揃うと難しい。
それに中には弓矢を初め、槍や剣など武装していた。
「囲まれてる?」
バーマンさんはゴクリと喉を鳴らし、後方から迫るゴブリンを見た。
その通り。やはり僕たちは囲まれていた。
「バーマンさん、しばらくじっとしてて下さいね」
「あ、ああ……。もちろんだ。君たちを任せるよ」
「じゃあ、全身――――」
「え?」
【
僕はバーマンさんに鍵魔法をかける。
バーマンさんは口を開けたまま固まった。
さらに僕は荷台やサーゲイにも【
「なるほど。そうして置けば、無敵ってことか。息はできているのかい?」
「問題ないです」
「いいね。じゃあ、後ろの5体は君に任せても大丈夫かい?」
「5体ですか……。大丈夫だと思います」
「謙遜はしなくていい。私との訓練を思い出せば、問題ないよ。いざとなれば、君には鍵魔法があるからね」
謙遜はしてないんだけどな。
初陣だし。
ゴブリンとはいえ、さすがに緊張する。
何せ魔物とは言え、僕は初めて殺し合いをするのだから。
だが、初めてだからといって、アストリアさんばかりに頼っていられない。
後ろを任せたということは、僕にアストリアさんの背中を預けてくれたということだ。
信頼に応えるのは、今しかないだろう。
ジャッ!
地を蹴ったのはゴブリンだ。
開始の合図はない。
喇叭の1つでも吹いてくれたら、少しは戦う気持ちが整ったかもしれないが、相手は魔物だ。
遠慮などしてくれない。
僕は腰に差していたナイフを取り出す。
王都の武器屋で買ったばかりの新品だ。
僕をそれを構えて、ゴブリンを見た。
ショートソードを不恰好に振り回しながら、僕との距離を詰めてくる。
技術もなく、繊細さの欠片もない。
それは一目見てわかる。
数日訓練した
気が付けば身体が動いていた。
ゴブリンが僕を斬りつける前に、握ったナイフが相手の頸動脈を切り裂く。
亜人系の魔物は、人間と急所が同じだと聞いた。
ただその教えのまま動いただけなのに、気が付けば1体のゴブリンは事切れていた。
かすっただけだけど、肉を切る感触に一瞬身が強ばる。
だが、怖かったのは最初だけだ。
仲間を討たれたゴブリンが次々と向かってくる。
恐怖に囚われつつも、依然として視界はクリアだ。
襲ってくるゴブリンの後ろで、弓矢で狙い撃つゴブリンがはっきり見えた。
先ほどの容量で矢を弾く。
心は怖がっているのに、身体は動いた。
多分、自分が動ける理由は1つだ。
きっと普段から、
僕は遮二無二戦った。
すると、気が付けば5体のゴブリンが倒れていた。
「はあ……。はあ……。はあ……」
信じられない。
鍵魔法をほとんど使わずに、僕はゴブリンを討伐していた。
「よくやったな、ユーリくん」
肩を叩く。
ハッと振り向くと、アストリアさんの喜ぶ顔があった。
その後ろには、10体以上のゴブリンの死体が折り重なっている。
彼女の戦果を見て、戦闘が終わったことよりも、そのすがりつきたくなるほど神々しい笑顔を向けたアストリアさんを見て、僕は本当に抱きついてしまう。
我ながら情けないぐらい、わんわんと泣いてしまった。
「勝った! 勝ちましたよ、アストリアさん」
「お、おい。ユーリくん。落ち着け……。その――――」
痛いじゃないか……。
アストリアさんは顔を真っ赤にしながら、泣く僕を受け止めてくれていた。
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本日もたくさんの方に読んでいただきありがとうございます。
ここまで読んだ読者の皆さんの評価をお聞きしたいです。
良かったら、★★★をいただけないでしょうか?
よろしくお願いします。
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