第21話 名前
連日PVの最高記録更新です。
ありがとうございます。
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なんとか守り切った。
自分1人で、アストリアさんを。
最初はどうなるかと思ったけど、終わってみれば呆気ない。
というか、所々記憶がない。
とにかく無我夢中だった。
「あ! アストリアさん!!」
僕はダンジョンの地面に寝かせていた彼女に駆け寄る。
かけていた鍵魔法を【
「後は、中の催眠薬の効果を……」
さらに鍵魔法をかけようとする。
だが、その前に眠っていたはずのアストリアさんが動いた。
バッ!!
一瞬、何が起こったかわからなかった。
気が付けば、僕はアストリアさんに抱きしめられていた。
ふわりとした彼女の匂いが鼻腔を衝く。
すぐ横に、アストリアさんの横顔があった。
さらに柔らかな胸の感触を感じて、僕はたまらず叫ぶ。
「あ、アストリアひゃん!!」
噛んだ。
大事な場面で噛んでしまった。
我ながら情けないぐらい動揺している。
でも、アストリアさんは僕を抱きしめ続けた。
さらに力を入れる。
密着する胸の感触のおかげで、つい頭がぼうとしてしまう。
「ありがとう、ユーリくん」
そのアストリアさんの第一声は感謝だった。
だけど、それは僕が予想していたものとは違った。
「君の言葉……。とても嬉しかった……。ありがとう」
「言葉……?」
『僕はもう彼女を孤独にしたりしない。だから守る! 絶対に! アストリアさんが、仲間と再会するまで!! 絶対に守ってみせる!!』
「もしかして、ずっと起きてたんですか?」
すると、アストリアさんは頷いた。
緑色の双眸には涙が浮かんでいる。
その涙を拭いつつ、彼女は話した。
ここまでの経緯を……。
アストリアさんはずっとバーマンさんの行動を疑っていたらしい。
やたらと積み荷の中身を見せたり、ゴブリンの住み処になっているような道をあえて選んで通っていた。
そもそも新人の冒険者に、良質な客は付きにくい。
対してバーマンさんが発注した依頼内容は、新人冒険者を含むパーティーに対してあまりに破格な条件だったらしい。
何かあると、ずっと警戒していたそうだ。
「紅茶に含まれていた眠剤もすぐにわかった。私は少々薬には耐性を持っている。だが、相手の人数や状況を把握したくて、罠にかかった振りをしていたんだ。まさか君が眠剤の効力を無効化できるなんて、思いもしなかったけどね」
「なら、すぐに起きて、2人で戦えば」
「それも悪くないと思ったけど、君の対応力というのも見ておきたかった。今後、こういうことは必ず起こるだろうからね。君の鍵魔法ならば、死ぬことはないと楽観していたんだ」
そしてアストリアさんの予想通り、アスキンの他にも冒険者が数人現れた。
「その時点で虚を衝いて、殲滅するつもりだったんだが……」
アストリアさんは、ジト目で僕を睨む。
何が言いたいかわかったけど、僕は苦笑するしかなかった。
「僕の【
あの時、アストリアさんがわずかに動いたのはそういうことだったのか。
「すみません。余計なことをしてしまって」
「いや、こっちこそすまない。そしてありがとう、ユーリくん。私を守ってくれて。とても嬉しかったよ。それに――――」
カッコよかった……。
アストリアさんは指先だけをくっつけ、手で三角を作りながら、頬を染めた。
その何か告白めいた言葉に、再び僕の心臓は跳ね上がる。
がはっ、と何か血を吐いてしまうような強いインパクトを秘めていた。
「しかし、冒険者にもあんなヤツがいるんですね」
「そんなものだよ。ダンジョンには多くの魔物が住んでいる。けれど、1番怖いのは人間さ。それだけは、頭の片隅に入れておいてくれ」
アストリアさんは顔を曇らせ、忠告した。
一転して、悲しそうな顔にぎゅっと胸が詰まる。
それはきっとアストリアさんが、身を持って体験したからだろう。
それも昨日会ったばかりの冒険者ではない。
長く連れ添った仲間に裏切られたのだ。
その心中は察するにあまりある。
「ところで、これからどうしましょうか?」
「悪いが、一旦第1層に戻ろうと思う。このことをギルドに報告しなければならないからな」
「なるほど……」
紹介したマーレイさんの悲しそうな顔が浮かぶな。
多分、ギルドを依頼するに当たって、審査はしているんだろうけど、それでも見抜けないことも多々ある。
現役の冒険者が関わっていれば、防ぎようがないだろう。
「ああ。そうだ、ユーリく――――。いや、ユーリ……」
「え?」
「ダメかな? 前から思っていたんだ。我々はパーティーになったんだ。お互い君付けさん付けは、何かよそよそしくないか? 戦闘での指示にもかかわってくるしな」
「あ……。そうですね。わかりました、アストリアさん」
「そこはアストリアと呼んでくれたまえ」
「す、すみません。じゃ、じゃあ…………」
アストリア……。
あー。あー。あー。
なんか恥ずかしい。
猛烈に恥ずかしい。
わかってるけど。
なんか心が掻きむしられる。
僕はふとアストリアを見る。
悶える僕の横で、彼女も顔を赤くしていた。
「アストリア、顔が赤いけど……」
「べ、別に……。ほら、行くぞ、ユーリ」
そして、僕たちは同じ方向を向き、来た道を引き返し始めるのだった。
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本日もここまでです。
だいぶよくなってきました。
明日こそは複数投稿します。
しばしお待ちを。
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