第15話 地下の激戦
昨日もたくさんの方に読んでもらい、
また★をいただきありがとうございます。
本日も頑張ります!
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ユーリとアストリアがダンジョンに向かっている時、再び宮廷は危機を迎えていた。
再び封印の扉が半開きになる。
その隙間から、ドロリとした黒い塊が溶け出ていた。
黒い塊は意志を持ったように動き、地下を荒らし回っている。
「なんだ! この黒い塊は」
「落ち着け! 魔法で対処すればなんとかなる」
「それよりも扉だ! 扉を――」
「ゲヴァルド様はまだか!!」
近衛たちは扉から漏れ出た得体の知れない物を駆除していた。
だが、黒い塊は扉から溢れ出続けていた。
そこにようやくゲヴァルドが到着する。
深酒をしたのか。
顔は青く、頭もボサボサだ。
身なりを整える暇もなく、近衛たちに呼び出されたのだろう。
寝間着の上に、厚手のガウンというだらしない恰好をしていた。
「くそっ! まだ寝ていたいのに叩き起こしやがって」
「ゲヴァルド様。宮廷の危機です。どうかご容赦下さい」
近衛長が横で拝跪する。
その横っ面をゲヴァルドは容赦なく引っぱたいた。
酒気が残る息を吐いて扉に近寄っていく。
「くそ! 親父から鍵師は楽な仕事だと聞いていたのに、全然楽じゃねぇじゃねぇか。折角金を払って魔法学校の首席になって、それで筆記試験を免除してもらって鍵師になったのによぉ……。おっと、これは秘密だっけ? くくく……」
近衛たちには聞こえないように、ゲヴァルドはぶつくさ呟きながら扉へと進んでいく。
「この前は深夜に叩き起こされ、今日は早朝に叩き起こされて……。仕事が終わったら、絶対2度寝してやるからな」
ガウンを被ったままゲヴァルドは、半開きになった扉を睨んだ。
「とっとと閉まっておけ!」
【
轟音とともに扉が閉まる。
流出し続けていた黒い塊の動きも止まった。
「はっ! どんなもんだ……」
ゲヴァルドは得意げに赤い鼻を擦る。
近衛たちもホッと安堵し、歓喜の声を上げた。
しかし――――。
ドォン……。
ドォン……!
ドォン!
ドォン!!
音ともに扉が震える。
いや、地下全体が震えていた。
凄まじい衝撃であう。
今にも封印の扉そのもの、いや宮廷ごと壊されかねないぐらいの……。
実際、扉はまた開こうとしている。
薄く開いたところから、また黒い塊が滲み出た。
それを見たゲヴァルドは反応する。
「うるせぇ! 眠ってろ、魔王!!」
自分の封印が解かれるよりも、けたたましい音の方に怒りを燃やし、再び鍵魔法を起動した。
【
扉はまた閉まったが、内から叩く音は消えない。
すると、また扉が開き始めた。
ゲヴァルドは鍵魔法で対抗する。
だが、本来は未熟者である貴族のどら息子の魔力量などたかが知れている。
10発ぐらい撃ったところで、打ち止めになってしまった。
にもかかわらず、また扉は開こうとしている。
「やべー……」
初めてゲヴァルドの口から焦りが漏れる。
顔を真っ青にして、なお開こうとする扉を見つめた。
そこに近衛が駆け寄る。
持ってきたのは、魔力の回復薬だ。
「ゲヴァルド様、これを飲んで鍵魔法を……」
ゲヴァルドは奪い取るように回復薬が入った瓶を掴み取る。
コルク栓を抜いて、口の中に流し込んだ。
「ぐぇ! まずっ!!」
口に入れた瞬間、ゲヴァルドは魔力回復薬をすべて吐き出す。
「もっと甘いのはないのかよ」
「あ、ありません。一応薬ですし。我慢してください」
「ふざけんな! こんな薬を飲むぐらいなら死んだ方がマシだ」
「え、ええ……? し、しかし、このままでは……」
その時だった。
近衛の後ろから黒い塊が現れる。
そのままジャンプするように飛び越えると、蹲っていたゲヴァルドに襲いかかった。
「なっ! 来るな!!」
咄嗟に腕を出す。
黒い塊がその腕にまとわりついた。
その瞬間――――。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!! 焼ける! 焼けるぅぅぅうううう!!」
地面の上でゴロゴロと転がり、悶え苦しんだ。
早く引き剥がそうと近衛が動くが、ゲヴァルドが動いて狙いが定まらない。
最悪、ゲヴァルドの腕を切ってしまう恐れがある。
「痛てぇ! 痛てぇぇぇえぇええぇぇえぇえ!!」
先ほどまで、偉そうにふんぞり返っていた公爵家の三男とは思えない狼狽ぶりだ。
近衛たちは仕方なく、まずゲヴァルドを取り押さえる。
悶える公爵家の子息を数人がかりで取り押さえると、腕についた黒い塊を排除した。
「痛ぇ……。痛ぇよぉぉおおぉおおぉ……」
ゲヴァルドは火傷を負ったような腕を見て蹲る。
その目には涙が浮かび、青白い顔をしていた。
近衛は早速回復魔法をかける。
「思ったより傷が深い。傷が残るかもしれません」
「うるせぇ……。それよりも早く痛みを何とかしろ。このままじゃ死んじまうよ」
次々と情けない言葉を吐露する。
その唇は震え、すっかり戦意を失っていた。
だが、その一方で扉はまた再び開こうとしている。
周りの黒い塊は近衛たちでも対処可能だが、肝心の扉の方は鍵魔法を持つゲヴァルド以外に適任者がいない。
「ゲヴァルド様、指示をお願いします」
「馬鹿なのか、お前? 見ただろ!? オレの鍵魔法じゃ駄目だ」
「じゃ、じゃあ……。どうしますか?」
「くそ! ひ、
姫勇者というのは、ムスタリフ王家の姫君のことを指す。
名前をエイリナ・ゾル・ムスタリフといい、姫でありながら類い稀な能力の持ち主で、民衆からは姫勇者と呼ばれていた。
むろん、オークではなく人間である。
「エイリナ姫は、今は下層へ外遊中です。しばらく戻ってこないかと……」
「チッ! なら、お前らがなんとかしろ」
「は? 我々では手に余ります。そのための宮廷鍵師では?」
「人の話は最後まで聞け! 魔法が無理なら物理的に閉めるしかねぇだろ! この地下を爆破しろ」
「爆破……? そ、そんなの駄目です。ここは宮廷の地下ですよ。爆破なんかしたら、上の宮廷にどんな影響があるか」
「ともかく扉を物理的に開かないようにするんだよ!! 早くしろ、ノロマ!!」
ゲヴァルドは怒鳴る。
近衛たちは相談し、土魔法と岩魔法を使い扉の前に巨大な土嚢を積むことにした。
懐疑的な者がほとんどだったが、意外にも功を奏す。
扉は閉まり、内から叩く音も止んでしまった。
地下を暴れ回っていた黒い塊も、次第に消滅していく。
「おおおおおおお……」
2度目の歓声は、やや小さかった。
魔法で巨大な扉を埋めるのだ。
近衛は百数人いるとはいえ、土魔法と岩魔法を使えるものは少ない。
最後は宮廷魔導士たちにも手伝ってもらい、やっと扉を埋めることに成功した。
「ははは……。やればできるじゃねぇか」
何もせず、ただ作業を頬杖ついて見ていたゲヴァルドは、己の功績を誇るように笑う。
「ですが、時間の問題です。これは大臣に報告すべき案件です」
「馬鹿野郎!!」
近衛長をゲヴァルドは殴り付ける。
「こんな失態……。親父に報告できるか」
「なら、前任者のユーリ様に相談されては? あの方であれば、良い知恵を……」
「愚か者!! は、犯罪者に頭など下げられるか。あんな小僧でも出来たのだ。オレができないわけがない。そもそも今だって安定してるじゃないか!!」
「……そ、それは――――」
「議論は終わりだ。親父や他のヤツらにチクったりしたら、お前らの家族全員縛り首にしてやるからな」
ゲヴァルドはよろよろと立ち上がる。
火傷の痕が残る腕を押さえながら、まるで敗残兵のように地下を後にした。
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火傷ぐらいで済むと思うなよ……。
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