第13話 鍵師の戦い

本日も朝からたくさんの読者の方に読んでいただいております。

いつもありがとうございます。

★の数も伸びております。付けていただいた方に、感謝申し上げます。


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 模擬試験はギルドの外で行われた。

 人だかりができ、自然と丸い人垣ができる。

 まるで小さな闘技場のようだ。


 その中心に僕とアスキン、審判役のマーレイさんが立っていた。


 アスキンは柄を握る。

 腰に下げていた鞘から引き抜いたのは、大きな曲刀だった。

 よく研がれた剣は、昼の陽光を受けてギラリと輝く。


 僕は思わず身構えた。


「心配するな。魔法で切れないように細工してある。それよりもどうやって、S級冒険者に取り入ったんだ、てめぇ?」


「別に……。僕は何もやってない。彼女からスカウトされたんだ」


「ケッ! なーんだ……。所詮S級冒険者もただの女か。どうやら、S級冒険者様は可愛い男の子が好きらしいぜ。けっけっけっ……」


 アスキンが笑うと、他の冒険者もドッと笑った。

 笑っていないのは、僕とアストリアさんと、マーレイさんぐらいだ。


「まあ、お前には悪いけどよ。S級冒険者様は俺のもんだ。なんせこっちには、人命がかかっているんだ。悪く思うな……。ついでに、お前の彼女のヽヽヽヽヽヽ具合も確かめヽヽヽヽヽヽてやるよヽヽヽヽ


 下品ににやけると、アスキンは大笑を響かせた。


 B級冒険者の下卑た言葉を遠くに聞きながら、僕は許可証のことを考えていた。

 アストリアさんのことだ。

 僕をパーティーに迎えれば、無条件通行許可証は剥奪されることを知っていたのだろう。

 でも、アストリアさんは僕を選んだ。


 初めは一時の気の迷いだと思っていた。

 でも、あの星空の夜。

 そしてここ数日間の訓練を経て、僕はアストリアさんが本気だと感じた。


 本気で僕となら、仲間を助けに行けると思っている、と――。


 冒険者になることを選んだのは、僕だ。

 でも何もないと思っていた僕を、アストリアさんは認めてくれた。

 そんな彼女が困っている。

 自分のせいで回り道になるとしても、期待に応えるのが僕の役目だろう。


 考え事をしていると、声が聞こえた。


「おい。お前、聞いているのか?」



 もう始まってるぞ……。



 顔を上げた瞬間、アスキンが大曲刀を振り上げている姿があった。

 審判のマーレイさんの手は、下がっている。

 野次馬の歓声で聞こえなかったが、模擬試験は開始されていた。


 完全に僕は出遅れたのだ。


「ユーリくん!!」


 その時、アストリアさんの声だけがはっきりと聞こえた。


「全身――――」



 【閉めろロック】!!



 ギィンッ!!


 一瞬にして、鍵魔法を起動する。

 まるで鎖同士を打ち鳴らしたような音が響いた。

 その瞬間、アスキンの身体が彫像のように動かなくなる。


 突如動かなくなったアスキンの姿に、先ほどまで歓声を上げていた野次馬たちは静まった。


 そんな中、僕の足音だけが響く。

 ほぼ無警戒にアスキンに距離を詰めると、大曲刀を持った手に、自分の手を重ねた。


 【開けリリース】。


 鍵魔法を使い、右手の拘束だけを解く。

 するとあっさりと手から大曲刀が落ちて、地面に突き刺さった。


 僕はアスキンを無力化したところで、声をかける。


「全身の【閉めろロック】は、主に四肢や首の筋肉を止めます。声帯の動きも止めるので、声も出せないでしょう。だけど、感覚器や内臓も動いているし、僕のことも、僕の声も知覚できてるはずです」


 むろんアスキンは無反応だった。

 瞼を閉じることすらできず、口やかましく抗議することもできない。


「今から、口と声帯を解放します。一言こう言って下さい。『俺の負けだ』と」


 【開けリリース】……。


「てめぇ、何を――――」


 【閉めろロック】。


「言ったはずです。一言『俺の負けだ』と言ってください、と。あなたの罵詈雑言を聞いている時間は、僕にもアストリアさんにもありません。それとも、このまま一生、その体勢で立っていますか?」


 僕はアスキンを睨んだ。

 これでもかと、冷徹に。

 僕の本気がわかるように……。


「もう1度、解きます。今度、他のことを喋ったら、あなたの心臓を停止させます。それがどういうことになるかわかりますよね?」


 【開けリリース】……。


 アスキンはすぐには言わなかった。

 だが、口先を震わせながら、観念したように答える。


「……お、俺の負けだ」


 敗北を宣言した。

 その言葉を聞いて、僕はくるりと審判役のマーレイさんの方を向く。

 ぞっと顔を青くした彼女は、すぐに手を上げた。


「ゆ、ユーリさんの勝利です!」



 おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!



 その瞬間、怒号めいた声が響き渡る。

 野次馬の歓声が、ギルドの前で突き刺さった。

 屈強な冒険者たちが、鼻息を荒くしながら、喝采を放つ。


「なんだ、今のは?」

「マジかよ! あのアスキンが手も足もでないなんて」

「アストリアさんがスカウトするだけはあるか」

「でも、あの魔法はなんだ?」

「アスキンが完全に動かなくなったぞ」


 称賛と戸惑いが入り交じる。

 大半の人間が、僕の魔法とやり口に疑問をいだいているようだ。


「お疲れ様、ユーリくん」


 アストリアさんは僕に手ぬぐいを渡して、労う。

 彼女はいつも通りだ。

 普段と変わらず、微笑みかけていた。


「おめでとうございます、ユーリさん」


 ギルド受付嬢のマーレイさんが僕を祝福する。

 直後、頭を下げた。


「ごめんなさい。あなたを侮っていました」


「いえ。当然だと思います。つい先日まで冒険者のことを何1つ知らなかったぐらいなんですから、僕は」


「1つ聞いてもいいですか? あの魔法は?」


「ああ……。単なる鍵魔法ですよ」



「「「「「鍵魔法??」」」」」



 マーレイさんだけではない。

 周囲で聞いていた冒険者すら素っ頓狂な声を上げて、驚いていた。


「鍵魔法って、あの……」

「金庫を開けたり、施錠したりする魔法だろ」

「でも、あいつ……。人の動きを――」

「鍵魔法って、そんなこともできるのか?」


 戸惑う冒険者が続出する。

 マーレイさんもその1人だ。


「鍵魔法で、人の動きを止めてしまうなんて……。聞いたこともありません」


「マーレイ殿。このユーリくんは、聖剣ですら断ち切れなかった呪いの仮面をあっさりと解呪してしまったんだ」


 アストリアさんは説明する。


「聖剣でも切れなかった呪いを……」


「その点においては、彼は我々『円卓アヴァロン』以上の戦力だよ。それでも、あなたとギルドは彼の力を認めてくれないのかな?」


「い、意地悪なこと言わないでください」


 マーレイさんは顔を赤くして叫ぶ。


「認めますよ。聖剣以上の魔法性能なんて聞いたことがありません。それも、鍵魔法だなんて……。信じられないのですが…………」


「今のを見てしまったら――だろ?」


「そ、その通りです」


 マーレイさんは「はあ」と息を吐いた。

 そして、僕の方を向く。


「ユーリさん。我々ギルドは、あなたの冒険者としてふさわしい力量を持っていることを認めます。そして、S級冒険者アストリア・グーデルレインとパーティーを組むことも」


「ありがとうございます」


「ありがとう、マーレイ殿」


「そしてギルドとしては、一冒険者としてのあなたの活躍を期待します、ユーリさん。アストリアさんを、いえ『円卓アヴァロン』のメンバーの救助、よろしくお願いします」


 マーレイさんは最後に頭を下げた。


「こちらこそよろしくお願いします」


 こうして僕は無事冒険者登録を果たし、アストリアさんとともに下層へと向かうことになった。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


休日とか、ストックとか、抱えてるゲラとか関係なく、頑張りたい。

みんなに読んでもらえるために、頑張りたい!

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