第12話 冒険者試験

堅調にPVと★の数が伸びていて、嬉しい限りです。

読んでいただいた方、★を入れてくれた読者の方。

本当にありがとうございます。


本日もよろしくお願いします。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~



 ギルドは冒険者専用の仕事斡旋所だ。

 地層世界では下層や、あるいは上層との積極的な交易が行われている。

 だが、他層に向かうためには基本的にダンジョンを通らなければならない。

 そしてダンジョンの中には、危険な魔物がいる。


 さらに迷路にもなっていて、必然的にダンジョンに詳しい専門家を雇う必要があるのだ。

 そうした中で生まれた職業が、ダンジョン探索者と呼ばれていた冒険者だった。


 しかし、ギルドがまだ生まれる前。

 冒険者は一攫千金を、人生大逆転を狙った荒くれ者ばかりだった。

 トラブルが絶えず、また商人の中にも契約を盾にして不払いを起こす者も現れた。


 一時商人と冒険者の対立は険悪なものに発展し、すべての交易が途絶えたこともあったという。


 そこで冒険者たちは、自分たちの権利を守るためにギルドを結成。

 ギルドは冒険者と雇い主の間の緩衝地帯となり、トラブルは激減した。


 ギルドの役割はそれだけじゃない。

 ダンジョンで起こった事件や変化、冒険者に冒険者証を発行して情報を一元管理したり、冒険者をランク制度にして、その意欲を高めた。


 次第にダンジョンに眠る財宝や、下層にある資源は、それぞれの層の統治者の目に留まり、冒険者は地位向上していったのである。


 まあ、だからと言って、いきなり品行方正になるわけじゃないけどね……。


「ふざけんな、てめぇ!!」


 三白眼の冒険者は近くにあった椅子を蹴った。

 怒髪天を衝くとばかりに、黒髪を逆立たせた男を睨んだ相手は、アストリアさんだ。

 猛獣のような眼光にも関わらず、アストリアさんは口を閉めて、じっと相手の言い分を聞いている。


「なんでB級冒険者の俺と手を組まないで、こんな新人ですらないガキと組むんだよ!?」


 冒険者は唾を飛ばしながら、声を荒らげた。


 経緯はこうだ。

 ギルドに入った瞬間、仕事を探しにきていた冒険者たちは、一目見てアストリアさんが、S級冒険者アストリア・グーデルレインだと気付いた。

 やはり冒険者の間では、彼女は有名らしい。

 崇拝されているといったレベルだ。


 冒険者とギルド職員を交えて、何故第9層に向かった『円卓アヴァロン』の1人が、第1層のギルドにいるのか、という話の流れになった。

 アストリアさんは、僕に話した内容を10分の1ぐらいまで要約して伝えた。


「『円卓アヴァロン』ほどのパーティーが、帰還不能なのか……」


 ギルド内は凍り付く。

 ごくり、と喉を鳴らして、沈黙した。


 そして話の流れは一刻も早く『円卓アヴァロン』を助けなければならない、という方向へと向かう。

 次々冒険者が救出に名乗り出る中、先頭に立ったのはその場にいた最高ランクを持つ冒険者だった。

 だが、アストリアさんは言う。


「結構だ。私はユーリ君と潜る」


「ユーリ?」

「え? 誰?」

「もしかして――」


 そこでようやく冒険者たちは、アストリアさんの影に隠れていた僕に視線を集中させた。


「紹介しよう。期待の新人冒険者ユーリ・ヴァリ――――じゃなかった、ユーリ・キーデンス君だ。といっても、今から冒険者として登録するのだけど」


 …………。

 一瞬の沈黙の後、B級冒険者は激しく憤り始めたというわけだ。


 先輩冒険者たちに遠慮して、折角中古の装備を取りそろえた成果は、無駄に終わったらしい。


 何故、僕と組むのか問われたアストリアさんは、こう答えた。


「彼がとても優秀な冒険者になる。そして彼となら仲間を助けることができる。私はそう判断した」


「B級の俺より、このガキの方が優秀だと言いたいのか?」


「そうだ」


「てめぇ……」


 B級冒険者とアストリアさんは一触即発になる。

 その瞬間、ビィィィィイイイイイと呼子笛の甲高い音が鳴り響く。

 間に入ったのは、ギルドの職員だった。

 きっと僕よりも年上だと思うのだけど、背丈は低く、顔もまだあどけなさが残っていて、童顔。髪が短いから余計にそう見える。


 だけど、胸の辺りのものは、とても大きなものをお持ちだった。

 横のアストリアさんが瞠目するほどに……。


「ギルド内での私闘は禁止ですよ。資格停止処分にされたいんですか?」


 言い方まで初等教育院の委員長みたいだ。


 だが、それでも資格停止処分という文言は、それなりにインパクトがあったらしい。

 B級冒険者は舌打ちして、1度怒りを収めた。

 一方、ギルド職員はアストリアさんに話しかける。


「このギルドの受付嬢をしているマーレイ・マーガフと申します。S級冒険者、そして『円卓アヴァロン』の方にお目にかかれて光栄です」


 何か種族の血が混じっているのだろうか。

 珍しい青髪に、黄緑色の瞳。

 どちらかというと童顔で、背も小さい。

 新米の受付嬢かと思ったけど、名札には「リーダー」と書かれていた。


「ああ。ありがとう。それで彼の手続きなのだが……」


「その前に一点確認させてください、アストリアさん。仮に横にいる彼と組むことになるのであれば、あなたが持っている第8層までの無条件通行許可が剥奪されることになります。その場合、お仲間の救出が遅れることになりますが、よろしいですね」


 え? と思わず僕はアストリアさんの方を見た。


 ダンジョンの行き来は、階層ごとの政府が発行している許可証が必要になることは、アストリアさんから聞いていた。

 その階層でいくつかクエストをこなしたり、政府が出す条件をクリアすることによって、次の下層へと続くダンジョンに入ることが許される。


 ギルドランクが上がると、特定の階層までの無条件通行許可が発行される仕組みになっていることも、僕は聞いている。


 しかし、僕と組むことでアストリアさんが保有する通行許可が剥奪されるとは聞いていない。


「ああ。わかってる」


「アス――――」


「わかりました」


 僕が言う前に、マーレイという受付嬢が口を開いた。


「では、ユーリさんの冒険者登録をする前に、力量を試験させていただきますが、よろしいですか?」


「ああ。構わない」


 力量? 試験?


 僕が首を傾げていると、アストリアさんが説明した。


「すまない。冒険者に登録するためには、能力を査定する模擬試合をしてもらう必要があるんだ。だが、大丈夫。君なら訳ないさ」


「試合の相手は、そこにいるB級冒険者アスキンさんです」


 マーレイさんは今だ憤りが冷めやらぬあのB級冒険者を指差した。


「アスキンさん、構いませんか?」


「ああ。俺は構わないぜ」


 アスキンという名のB級冒険者は一瞬ポカンとした後、ニヤリと笑った。

 慌てたのは、アストリアさんだ。


「マーレイ……。確か新人の相手は、D級かC級だったと思うが……?」


「特に規定は設けていません。慣例でそうなっているだけです。私はアスキンさんが適当な相手だと思い、指名させていただきました」


「適当か……。なるほど。君も、いやギルドか。あの男と組んで、下層を目指してほしいのだな」


「申し訳ありません。何があって、その彼とパーティーを組みたいのかわかりませんが、ギルドとしてはむざむざ貴重なS級冒険者を見殺しにはできません。責任問題にもなりかねませんから」


「B級冒険者と組めば、少なくとも第5層までは無条件通行できるからな」


「その通りです」


 マーレイさんは強い口調で言った。


「大丈夫です。死ぬことはありません。全身の骨が折れるぐらいは、覚悟してもらわなければなりませんが……」


 先ほどまでの幼い感じはない。

 どこに隠していたのか。

 寒気がするぐらい冷徹で事務的な言葉をアストリアさんに浴びせた。


 よほど僕と組んでほしくないのだろう。


 だがマーレイさんの言っていることは優しさなのだ。


 第9層に長く留まれば留まるほど、生存率は低くなる。

 ならば、今現状取りうる最速最短の手段を取るのがベストだ。

 ギルドも協力を惜しまないつもりだろう。


 その上で最悪の結果であれば、関係者は納得できる。


 しかし、仮に僕とパーティーを組み下層に向かって、『円卓アヴァロン』が全滅していたとなれば、それはアストリアさんの責任になる。

 きっと彼女は、地層世界すべてからバッシングを受けるだろう。


 なら、いっそ――――。


「――――だそうだよ、ユーリくん。どうする? 君が選択したまえ」


 アストリアさんは少し突き放すように僕に言った。

 僕に試験を受けてくれ、と懇願も強要もするわけでもない。

 君の選択を信じているという言葉すらなかった。


 アストリアさんの横顔を見ながら、僕は自身を戒める。


 何を大きく考えていたんだ……。


 僕は新人冒険者だ。

 いや、新人ですらない。

 そんな責任を被れるほど大成しているわけでもない。


 それに冒険者になるならないは、アストリアさんが決めたことじゃない。

 僕が決めたことだ。

 だったら、僕が言うことは1つしかない。


「受けます……。冒険者の試験を受けさせて下さい」

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