第9話 武器屋デート
僕たちは武器屋に来ていた。
アストリアさんは、僕の母親の装備を引き継ぐようだ。
大半を家に入れてしまったけど、腕相撲で稼いだお金はまだ残っている。
新調しても問題ないと思ったのだが、アストリアさんは気に入ったらしい。
「プロとして、最新の武具に身を纏うのが正しいのだろうが、私は使い込んだ武具が好きでね。しばらくこの装備をお借りしようと思う」
――――だ、そうだ。
その心意気は身内として嬉しい。
けれど、仲間が母親の武具を使っているのは抵抗がある。
なんか母さんに見張られているような気分になるんだよ。
あの鎧の奥から不敵な声が聞こえてきそうだ。
昼間の武器屋は閑散としていた。
というか、僕たち2人しかいない。
今の時間、主な客である冒険者たちが、ダンジョンに潜っているからだろう。
カウンター向こうの店主も、舟を漕いでいた。
店内は静かでその店主の寝息しか聞こえてこない。
宮廷の中ではよく見た武器だけど、こうして武器屋に入って武器を選ぶのは初めてだ。
剣、槍、斧、こん棒、ナイフ、
その他にも様々な武器があって、思わず目移りしてしまう。
そして、どれも重そうだ。
そんな中、僕はナックルダスターを見つける。
これなら僕でも持てそうだと手を伸ばすと、細い指先と僕の手が重なった。
「「あっ……」」
思わず声を重ねてしまう。
横を見ると、アストリアさんだった。
僕は慌てて手を引っ込める。
アストリアさんも、同じような反応速度で、手を引いた。
やばい……。
アストリアさんの手、すっごく柔らかかった――じゃなくて!
なんだ、このシチュエーション。
まるでデートみたいじゃないか。
いや、さすがにそれはない、ない。ないない。
武器屋デートって、どんなカップルに聞いても出てこない言葉だよ。
「「ごめん……」」
うわ……。また被った。
カウンターの向こうで店主が起きる。
だが、すぐに寝入ってしまった。
すると、アストリアさんはクスクスと笑い出す。
「どうやら私たちは、仲間になるべくして仲間になったようだ」
「で、ですね……。こんなに息がぴったりなんだから……」
僕は苦笑で返した。
「ところで、ここにある武器はあんまりだな」
「ですね。どれも中古みたいだし」
そう。
僕たちが訪れた武器屋は、ただの武器屋じゃない。
どうやら冒険者から払い下げたと思われる中古品を扱った店のようだ。
「中古よりも新品の方がいいのでは?」
「ユーリ君は、新品の武器の値段を知らないだろ? あれは結構するぞ。それに新人の冒険者が新品の武器を着てたら、他の冒険者からやっかまれる」
「そんなものですか」
「それに、ここに来たのは別の目的があるんだ。ユーリくん、冒険者が武器を手放す時って、どういう時だと思う?」
そりゃあ、武器として役に立たなくなった時だろう。
例えば、破損したり、修復が不可能になったりとか。
他には武器を新調した時かな。
「ああ。だが、他にも考えられるぞ。……店主、ここには呪いの武器もあるか?」
「呪いの武器??」
ギョッと僕は思わず目を剥く。
すると、店主は奥から箱を持ってきた。
中身を開けると、呪いがかかった武器が入っている。
「下層に行くと、呪いにかかる武器が結構あるんだ。中には、私が以前被っていた仮面のようになかなか解呪できないものもある。だから、みんなこうして武器を売りに来るのさ。……店主、すべて含めていくらだ?」
「全部買うのかい? じゃあ、全部合わせて3万ルドでどうだい?」
「よし。いいだろう。買った」
アストリアさんは、あっさりと承諾する。
3万ルドが高いか安いかはともかく、まさか全部買うとは……。
こんなに武器を持っていても、僕たちのパーティーは僕とアストリアさんしかいない。
今後仲間に引き入れる冒険者のためのものだろうか。
「ああ……。ところで、ユーリくん。1つ頼みたいことがあるのだが……」
アストリアさんは微笑む。
なんとなく察せられるのだけど、僕は一応聞き返してみた。
すると、案の定といった返答が来る。
「この呪いの武器を全部解呪してほしいんだ。出来るかな?」
「おいおい、嬢ちゃん。坊主がどんな技能を持っているか知らないが、この呪いを解くのは無理だ。聖水に10日漬けておいたが、まるで効果がなかったんだぞ」
会話を聞いていた店主が口を挟む。
その間も、お金のやりとりをしつつ、呪いの武器一式を手に入れた。
「大丈夫だ。心配ない。どうだい、ユーリくん?」
僕は武器を見る。
まあ、見たところでわからない。
ただ僕は鍵魔法を使うだけだ。
「やるだけやってみます」
僕は手を掲げる。
「呪い――――」
【
鍵魔法で呪いを解呪する。
無事、すべての武器を解呪できた。
「すげぇ……」
カウンターから身を乗り出し、店主はあんぐりと口を開けた。
アストリアさんは、その中から1本のナイフを取り出す。
残った武器をカウンターにおいて、店主の方に向き直った。
「店主……。武器を売りたい。すべて合わせて、8万ルドでどうかな?」
あ……。狡い……。
思ってしまったが、これも商売だ。
店主は考えた末に首肯し、白旗を上げた。
「嬢ちゃんは敵わねぇなあ。……買った」
全くだ。
どうやら僕の仲間のS級冒険者は、買い物でもS級らしい。
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