鬼になったシャボン玉が好きな女の子のお話

紅華

第1話

"えへ、昨日ね、兄ちゃん達とお祭りに行ってね、私の足が遅いせいで途中からしか参加出来なかったんだけど楽しかったの!"


飾った花を撫でながら笑った。昨日の出来事の報告が楽しくて、私は毎日ここに通っている。

ここは怖いし、お化けがでてきそうだけど、大丈夫。だってお母さんがいるんだもん、いざとなったらお母さんに助けて貰えばいい。


"それでね、凄い歌のうまいひとがいてね、びっくりしちゃったの!なんかね、見た目は男の子なのにね、声はとっても綺麗な高い歌声だったの!もう1回聞きたいなあ"


返事はされた事ない。だけど話すんだ。

きっと聞いてくれてるから。

譜夜お兄ちゃんも言ってたもん。声がこちらに聞こえないだけで私が伝えたいことはちゃんと届いてるって。


"あとね、お祭りの名前が太鼓踊楽って言うんだけどね、凄い綺麗だったんだよ!お友達もできたよ!!"


ポケットからお饅頭を出して花の横に静かに置いた。


"これ、そのお友達がくれたの!凄く美味しいの、これ。

…あ、名前聞くの忘れてた…で、でもどんな人かは覚えてるよ!2人いるんだけどね、薄紫のパッツンで後ろをくくってる凄い優しいおにいさんと、青色のボブのちょっと頼りなさそうなおねえさんの2人がいたんだ!"


"青色のボブの子は、おみみが聞こえないんだって。

神様がおねえさんに与えた『しれん』なんだって!これだけ私が話しても返事が返ってこないのも『しれん』なのかな?"


しゃがんでいると足が痛くなるので、三角座りをして石を見上げた。


"あ、お母さん!今日もシャボン玉持ってきたよ!魦娌が今からふーってするからみててね!"


シャボン玉の液をたっぷりつけた輪っかをふーっと優しく息を吹きかけた。


お母さんと一緒にシャボン玉を作ったのを思い出して急に涙が出てきた。


"お母さん、いつか戻ってきてくれるんだよね?ずっとこのまんまじゃ嫌だよ、魦娌、今のお母さんより前のお母さんの方が好きだよ、お母さん、喋ってよ…"


返事は無い。お母さんは魦娌の事が嫌いになっちゃったのかな。もう、返事もしたくないのかな。


"魦娌!"


"…譜夜お兄ちゃん"


"こんな…もう夜ですよ、こんな怖い所にずっといるなんて…魦娌は本当にお母様が好きなんだね、怖いもの大嫌いなのに。でも、今日こそお兄様に怒られちゃいますよ"


"ねえ、譜夜お兄ちゃん、お母さんはいつ喋るの?"


"え?"


"だってこの石はお母さんの代わりなんでしょ?この石、耳も鼻も目も口も無いよ、本当にお母さんの代わりになってるの?お話、聞いてくれてるの?"


"勿論、聞いてくれてます。喋らないんじゃなくて、喋れないだけなんですよ。

魦娌が喋らないって悲しくなってるみたいに、もしかしたらお母様も喋りたいのに喋れないって悲しくなってるかもしれませんね。でも、魦娌の声を聞けるのは嬉しい事だと思いますよ。僕もお母様にお話しようかな"


"おくちが動かないだけなのね。私の友達にもおみみが聞こえないおねえさんがいるの。そっか、お母さんはおくちが動かないんだね、じゃあ魦娌がお母さんの分まで喋ってあげる"


"ふふ、お母様も喜びますね"


譜夜お兄ちゃんがお母さんにお話をするみたいで、来た道を引き返した。お母さんはいつも通り固い石だったけど、何か暖かく感じた。



"お母様、譜夜です。魦娌もお兄様も何とか元気にやってますよ。お父様とは仲良くやっていますか?そちらの世界でも喧嘩ばっかりは辞めてくださいね。あ、あとお兄様が鬼殺隊っていうので最終選別に出かけているんです。とても危険な選別で、死と隣合わせなんです。お母様、誰よりも頑張っているお兄様を守ってあげてください"


"守ってあげてください!"


お母さんに届くようにもっと大きな声で言った。


"…帰りましょうか"


"うん!"


やっぱり私は、どんだけ怖くてもお母さんが眠っているこのお墓が大好きだなぁ。

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鬼になったシャボン玉が好きな女の子のお話 紅華 @Iroiroiro168

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