持っている物が違う
俺が所属しているテニス部は、部員15名の、土曜日がオフで、平日練習は4時から6時までの2時間練習、日曜日も10時から12時の2時間練習。朝練は自由参加で40分だけ。
コートは2面あって、女子テニス部と併用で使っていたらしいが、一昨年、人数が少なくなって廃部になったらしい。
朝練はもちろん俺1人で、放課後練習も他の奴らは平気で休む。
15人所属していると言っても、あくまでも名前があるだけ。
3年生の部長の狭山さん、2年生の副部長の岡島さん、同じく2年の相川さん。
そして、1年生の俺、小野寺。
入部して1ヶ月経ってるけど、俺はこの3人の先輩しか知らない。
最初は4人という、少人数に驚き、不安しかなかった。
しかし今では、この4人という人数になんの違和感も感じなくなった。
ただ、練習に来ているからと言って、先輩達3人は上手くない。
大会も、あと少しで勝てそうな試合を取りこぼし、いつも2回戦負けらしい。
練習は真面目に取り組んでいて、コースはばらばらだが、俺にも球出しをしてくれた。
最小限の力でだけど、ラリーもなんとかできている。
正直、何ひとつ練習にならない。
それでもいないよりはましだった。
土曜日は、午前中に学校の授業を受けて、午後には、電車と歩きで片道1時間のところにある、小学生の頃からお世話になっているテニスクラブのコーチとしてアルバイトをしている。
日曜日も部活の後にシフトが入っている。
城東学校は、成績に支障が出なければアルバイトなどをしてもいい校則だった。
テニスクラブでのアルバイトと言っても簡単な仕事だった。
2時から6時まで、スクールに通っている、小学生や中学生に球出しをするのがメインで、フォームや、試合の動き方などをアドバイスを軽くするだけ。
お給料は最低賃金だが、休日と祝日の、6時から9時の上級者コースの練習会の参加料を無料にするから来ないかと言われて、俺は2つ返事で了承した。
上級者コースは、年齢問わずで試合をメインにやっている。
日によるが、人数はだいたい10人程度で、コートは4面とかなり余裕で使える。
30代後半の男の人もいれば、大学生の人達や、中学生3年生の女の子もいたりする。
見た目で判断することはとても危険であると、俺はここで再確認させられた。
上級者コースとだけあって、ここにいる人達は全員レベルが高い。
負けたことはないが、何度も危ない場面がたくさんあった。
最近でショックだったのが、中学生の女の子に1ゲーム取られたことだろうか。
日曜日の練習会が終わると、また1週間が始まる。
朝練に行って、授業を受けて、部活で軽く汗を流し、居残り練習をして、家に帰宅。そのあとに、家の近所の公園のウォーキングコース1周1キロを5週してから、授業の予習復習をする。
こんな感じで毎日を過ごしていたら、インターハイ予選の地区予選が始まった。
インターハイに出場するには、まず、東地区、西地区、南地区、北地区の4つの地区に別れたトーナメントでベスト16に入り、計64人がその翌週にある県大会へ行き、更にそこでベスト8に入らなければいけなかった。ベスト8に入った人達は、そのまた翌週にも順位決めの大会がある。
練習に来ていた先輩達だったが、3人とも地区予選2回戦負けだった。
俺は順調に勝ち上がり、危なげなく県大会へと駒を進ませることができた。
県大会でも、勢いそのまま勝ち上がり、インターハイ出場がかかった試合では、強豪校の3年生エースとフルセットの末、インターハイ出場を決めた。
次の、ベスト4決めの相手は、インターハイ出場を決めたからか、勝つ気が無かったので楽にベスト4に入ることができた。
今までやってきたことが、確実に身についているのを実感した瞬間でもあった。
次の試合が始まるまで体を休ませていると、
「スーパールーキー小野寺君」
と、後ろに2年生2人を連れた狭山さんが声をかけてくれた。
応援に来てくれたのは嬉しかった。
しかし、集中力が増してる今、あまり話しかけないで欲しかったのも事実だった。
「え?ベスト4入ったの?すげーじゃん」
「いやいや、小野寺なら当たり前だって岡島。狭山さんもそう思いますよね?」
「そりゃそうだよ。小野寺は持っている物が違うんだ。もしかしたら優勝するかもね」
狭山さんの言葉を聞いた直後、頭の中でピンと張っていた糸みたいなものが、プチンという音を立てて切れていくのが分かった。
「またか·····」
そう呟いた声は、次の試合の招集のために使われていた拡声器から発せられた自分の名前にかき消されていた。
結果は、完全に集中力が切れたせいで惨敗だった。
初めてのインターハイ予選の結果はベスト4という成績で終わった。
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