居残り練習 2

私たちの部活は火曜日と木曜日がオフだった。

練習試合がある時は日曜日も部活があるが、ない時は基本オフだ。

中学の部活は、平日のオフが無かったので、どう過ごしていいかわからなかった。

最初は家に帰って自主練をした後に、授業の予習なり復習なりをしていた。

それでもまだ物足りなかった。

だから私は顧問の恵美先生の所に行き、他の部活が終わった後の体育館許可を貰えるかお願いをしに行った。

最初は、

「あなた、家まで遠いのに帰りが遅くなるのは危ないわよ」

と、言われた。

城東高校の最終下校時間が6時30分だった。

当然、他の部活が終わってから練習するとなると、時間が遅くなるだろう。

私の帰りを心配してくれるのは、とてもありがたかったけど、なにより私はバスケが好きなのだ。

だから、無意識のうちに声が大きくなっていて、教員室にいた先生たちが、作業していた顔を上げ、私の方を見ているのがわかった。

すると、ある男の先生が歩いて来た。

「居残り練習の許可ですか?いいですね。熱中できるものがあって。いいでしょう。7時までですけど、私が責任者として体育館の使用を許可します。ただし、終わった後は私の所に来て、帰る報告をしてから帰ってください」

校長先生だった。

「校長先生はそうおっしゃいますけど、女の子なんですよ。夜道を1人で歩かせるのは危険です」

「それは林坂さんもわかっているとは思いますよ」

校長先生は、私を見て言ったので、こくっとうなずいた。

「わかったうえで自分の好きなことをやりたいんですから、教師が止める理由はありませんよ。それに学校から駅までだって大通りで人がたくさんいます。もう高校生なんですから、危険かどうかなんて自分で判断できます。自分の判断で危険がないと判断したからお願いしたのではないでしょうか」

校長先生の言う通りだった。

学校から駅までの道は、お店も多く暗くはない。

そして、なにより人の通りが多いので、万が一何かあった時には、大きな声を出せばいい。

家の最寄り駅からも10分で家着くので何の問題もない。

「まあ、そこまで校長先生が言うのであれば」

恵美先生も納得してくれたみたいだ。

「ありがとうございます」

私は、恵美先生と校長先生にお礼を言って教員室を出た。


翌日の火曜日、帰りのホームルームが終わった4時から、教室で残って自習をしていた。

2時間みっちり勉強したあと、6時からは練習の準備を始め、 6時25分に体育館に着き、そこからシュート練習、ドリブル練習をした。

普段から手を抜いていたからか、久しぶりに本気でシュートを打てた。

たった30分間だけだったけど、普段の部活と同じか、もしくはそれ以上の汗の量だった。

7時になってからモップをかけて、制汗剤で汗臭さを消して、身支度をして校長室に向かった。

校長室のドアが空いていて、校長室の前に立った時に、机で作業をしていた校長先生と目が合った。

私は、校長室に入って、

「練習終わりました。今から帰ります」

と、報告をした。

「はい、お疲れ様でした。時間少なくてごめんね」

「いえいえ、全然。とてもいい練習ができました」

「それなら良かった。気をつけて帰るんだよ」

「はい、さようなら」

校長先生はとてもいい人で、先生で誰が1番好きかと聞かれたら校長先生と答えられるくらい、私の中での好感度が上がっていた。


木曜日のホームルームが終わった直後、前に座っていた栞が、

「一緒にかえろー、舞ー!」

と、声をかけてくれた。

「ごめん、私、これから火曜日と木曜日は6時半から体育館使えるのね。だから、それまで勉強するから一緒に帰れないかな」

「えー、せっかく一緒に帰れるのがその日だけだったのにー。部活頑張りすぎだよー」

「私、バスケ好きだからね」

「まあたしかに、バスケやってる舞かっこいいもんね!」

私は、心が傷んだ。それもそうだ。

栞は、何回か練習自試合を見に来てくれていて、私のプレーを何度も見てくれていた。

しかし、そのプレーは全部、全力ではない、手を抜いていたプレーだった。

「ふふ、もっとかっこよくなるために技を磨いているのだよ」

冗談を言って返したが、ちゃんと笑えてるだろうか。顔は強ばってないだろうか。

過去のことは高校生になってから誰にも話していない。

だからこそ、悟られないように笑顔で振る舞った。

「それ以上かっこよくなったら惚れちゃうよ?」

よかった。ちゃんと隠せたのだろう。

「じゃあ、私は帰るね!頑張ってね舞!」

私は手を振って、栞が教室から出ていくのを確認してから、ボソッと

「かっこいいか·····」

栞からすれば、なんてことない言葉かもしれない。

「いつか、栞に話せる時が来るのかな·····」

私は、 机に開いていた数学の教科書の問題を解き始めた。



自主練を始めて1ヶ月くらいが経った頃だった。

いつも通り、ストレッチや帰りの身支度をしていた。

体育館の電気を消してから、校長室に向かった。

「いい感じに動いたなぁ」

スクールバックを持っていない方の腕を伸ばした。

校長室は2階にあって、階段を登らなくちゃいけない。

自主練を始めた頃は、練習後は階段を登るのもきつかったけど、今では体力も向上して、鼻歌をしながら階段を登れる。

そんな時、踊り場で、大きいリュックを背負った男の子とすれ違った。

私は、鼻歌をしていたため、恥ずかしかったが、ここで止めるともっと恥ずかしいと思って気付かぬ振りをして鼻で歌を歌い続けた。

階段を登り切って、私は恥ずかしくて死にたくなった。

体力がついてきているのに、今までで1番疲れた気がした。


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