48. その頃、魔王城では

「ご期待に添えず、申し訳ありません」


  薄い明かりに満たされた部屋の中、一人の男が頭を下げていた。エリーズと戦い、魔王城へと引き戻されたあの男だ。

  下げられた頭は、この冷たい部屋の中でも一際目立つ豪奢な椅子に座る男に向けられていた。


「ホーク、それは構わない。私の与えた魔力も尽きかけていた」


  「それにしても、凄いですね。あの娘が俺達を狙っていると、お気づきになられていたんでしょう。烏もああして、手配して、偵察させて」


  ホークと呼ばれた男はそう告げると、椅子に座る魔王の手の中で眠る羽艶のいい烏へと目を向けた。そう、まるで穏やかな表情をして眠っている烏だ。


「単純な話だ。魔法を上手いこと組み合わせて使えば、それくらいのことなど簡単にできる。お前もいずれ、できるようになるだろう」


「お褒めに預かり光栄です」


  ホークが頭を下げると、魔王はゆっくりと部屋から出ていった。


  カツカツと足音を響かせながら、魔王は廊下を歩いた。


(また面倒なことになった。殺せれば簡単なんだがな……)


  魔王としてもさっさとあの娘達を殺したいところではあったのだが、攫った娘といいエリーズといい、神の御加護を受けているのかどれだけ呪いをかけても死なないのだ。攫った娘に関しては、何がどうなっているのか、魔王には傷一つつけられない始末。今までの悪行の所業からか、随分と怒った神達の存在を感じる。


(本当に面倒だ)


  魔王は舌打ちをすると、鉄製のドアを叩いた。

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