46. 恐怖の宣言

  突然カチリ、と彼の制服のポケットからスイッチが押される音がした。

  彼の足が、地面から浮く。

  初めて戦った興奮からか、何も考えずに彼の袖を捕まえようと手を伸ばす。


 そのとき。


  ぎゅっと力強く抱き寄せられた。


  驚く間もなく、目の前の彼は、何かに引き寄せられる様に、飛んでいく。


「離して!」

 

  にやりと笑っている彼に手を伸ばしながら、エリーズは後ろを振り向こうとしたーーが、がっちりホールドされてしまっているためそれは叶わなかった。


  「なんでこんなことをしているんだ!」


  叫ぶ人物の声に、エリーズは心当たりしかなかった。ただ、どうしてこの人物ーーアランがここにいるかは謎なのだが。

  それから、彼の飛んで行った方向を見、ひやりと背中を汗が伝う。空中では、エリーズは圧倒的に不利だ。もしそのまましがみついていれば、地面に叩き落とされていたかもしれない。

  そう考えるとふっと力が抜けてしまって、エリーズは、後ろの人物もろとも尻もちをついた。


「大丈夫か?」


  いてっ! と呟いたあと、アランが言う。

  レオンにリルたちがいると言われた方を向けば、リルやサラ、ミシェルが困った顔で話し合っていた。レオンはいないようだ。彼はもっと根幹的な計画を練ったり、交渉したりするのに忙しい。

  悩むような素振りを見せる彼ら。しばらくしてから、ミシェルが携帯を取り出した。レオンに判断を委ねるようだ。


 三分ほど経って、ミシェル達が茂みの陰から出てきた。


「アラン様、お話があるんです」


  ミシェルが緊張した面持ちで言う。


「エリーズさんのことなんですけど」


「あぁ」


  ピシッと姿勢を伸ばした 彼らに、アランも姿勢を正した。なんだかんだ言って、彼もこの国の第二王子なのだ。


「あの、すみません。今度の、魔王討伐計画の攻撃の要として、エリーズさん、出陣なさることになってしまいました!」


  ミシェルの首筋に、玉のような汗が見えた。相当緊張しているらしい。そりゃそうだな。王子の婚約者が戦争に出ますすみません、なんて宣言、確かに恐怖しかない。


「私から言ったんです! 計画を知ってしまって。役に立てるならって」


  だからエリーズも加勢した。

  ミシェルが安堵したような表情を見せる。

  サラに至ってはまるで感情が透けるようにほっとした顔をしていて、レオンとの血の繋がりをありありと感じた。


「分かった」


  ほどなくしてアランが頷いた。


「エリーズ。今日の夜十時家に行ってもいいかな?」


  (やべぇ)


  真顔で言うアランに、エリーズはただ頷くことしかできなかった。

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