41. 貴族のお遊び

  時は流れ、放課後。


  レオンの指示通り、昼休みに、


「放課後、ちょっと話があるんです」


  と見事部下を呼び出すことに成功したエリーズは、学校の裏手の山で、彼と対峙していた。


「えっと、話っていうのは?」


  頭をかく部下に、エリーズは少し微笑んだ。


「突然なんですけど、ちょっと伺いたいことがありまして」


  傍に隠しておいた剣を取り、後ろ手に持った。ナイフと剣、どちらも隠しておいたから、やっぱり安心感が違うな。


「貴方の上司――いや、魔王のことについてなんですけど」


  「へぇ、なぁに?」


  部下の目付きが変わった。今までとは全然違う薄ら笑みに少ししり込みする。


「魔王は、本当に人を殺しますか?」


  一つだけ、聞きたかったこと。もし今までの話の全て間違っていたなら、そして思い込みなら、無意味な殺生はしたくない。

  それに、エリーズはこの数ヶ月間ずっと、自分が人を殺すやもしれぬということについて、考えてきた。

  果たして、今までただの女の子だった自分が、本気で戦場に身を投じることができるのか。

  けれどそれはいくら考えても答えはでず、最終的な結論としては、やってみないと分からないということだった。

  魔王については個人的に調べてみたりもしたが、出てくるのは魔王がもたらした災厄とそれに関する噂ばかり。魔王についての客観的な情報は全然なくて、中には信じるのも馬鹿馬鹿しいと思えるものまであった。

  だから、きっと現実を見ないと、覚悟などそうそうできない。


「まぁ、してるね」


「そうですか」


 深く息を吸い、覚悟を決めて勢いよく切りかかると、部下は身を捻って避けた。やはり魔王の部下、という名は伊達ではないらしい。


「また貴族のお遊び、か。ま、でも俺が魔王様の部下だと知ってるなら話は早いな」


  また、ということは、レオンのお姉さんを指しているのか。だとしたら、お遊び、というのは? 討伐計画が為されるくらいだ。彼女だってふざけて喧嘩をふっかけたわけじゃあるまい。

  などと考えていれば、目の前に魔法が放たれていた。この程度で剣は使いたくない。

  あっさり避けるとふ〜ん、と部下がにやにやしながら感嘆したような声を出し、真顔に戻した。


「お遊び、とは一体どういうことでしょう?」


「え、話知らないの?聞いてないの?」


  何だかやけに癇に障る声で話す。


「貴方が停学になり、それに関する一人が退学になった事件でしょう?」


「あー、うん。正解。それで正解なんだけど、ちょっと違うかな」


「どういうことですか?」


  聞き返すと、部下がまた魔法を放った。それもすぐさま避ける。

  けれどこの部下、何も言わずに魔法を使うから予想がしにくい。戦いにくい。


「戦っている間、といってもあの娘弱かったから戦うまでもなかったけど、とにかくその間に色々言ってたんだよ。バッドエンドフラグがどうのこうの、魔王がどうのこうの。それから」


  部下が不意ににやりと笑った。


「君達がどうのこうのって」


「私の名前をしってるんですか!」


「あぁ、うん。知ってる。君は有名だもの、エリーズ・ベルナール。人呼び出しといて自分の名前言わないくらいには、ね? まぁそれはいいや。ともかく君は、この国の四大名家の一つ、ベルナール家の長女で、それで」


 エリーズはごくりと唾を飲み込んだ。


「悪役令嬢ってやつなんだろう? なんだっけ、ヒロインいじめて干されるんだっけ。俺が聞いた限りでは、性格悪い令嬢だって言ってたけど。最悪じゃんね、そんなの。救いようないじゃないか」


  部下は嗤った。


「なんともまぁ馬鹿げた話だと思ったよ。そういえばあの娘、自分はこの世界の創始者だ、とも言っていたね」


(どういうこと?)


  エリーズは混乱しつつ、微笑む男を前に、剣を構えた。

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