42. 炎のドラゴン

「あの子が言ってた意味はわからなかったけど、全ての創始者である魔王様を前にしてそんなことを言うなんて、本当に人間て趣味の悪い遊びが好きだよね。俺に向かう前に、先に精神病院行った方が良かったんじゃない?」


「結局何が言いたいの。ていうか、あんたも人間じゃない」


  エリーズが声に険を滲ませながら言った。こうして話している間にも、彼が隙を付け狙っているというのが、ありありと分かる。

  エリーズを煽っているのも、そのためだろう。

  互いに一歩も引かず、かと言って技を放つわけでもなく、ただただ相手を狙う時間だけが過ぎていく。


「君だって急に武器向けてくるしさぁ。ほんとに君教育受けてきたの? 五歳児でも知ってるよ。危ないものは人に向けてはいけませんって。あ、そっか、悪役令嬢だもんね、君」


「そんなことは分かりきっている。けれど、貴方はこの喧嘩を買ったわけだし、それに私は、貴方の言うような悪役令嬢ではないわ。あと、これは私だけじゃなくて国に関わる問題なのよ」


 まぁ悪役令嬢なんだけれども。けれど、きっと彼が定義している悪役令嬢とエリーズでは、意味が変わってくるはずだ。


  「俺が喧嘩買った、か……それに国の問題ときたし……まぁでもこの茶番もそろそろ終わりにしようか。飽きてきた」


  彼はにやりと笑った。口角が限界まで上げられる。

  それから彼が手をぎゅっと握ると、中から青白い光が漏れだした。


(炎の魔法に適性があるのか)


  魔王を使うときに生まれる光は、それぞれ魔法への適性を表している。青白い光は、最大限に炎に適性がある証拠だ。


「フレイム・ドラゴン!」


  彼の手から伸びた龍の首が、エリーズの前で火を吹いた。


(これは……)


  師匠が昔放ったドラゴンと、酷似している。けれど、炎の色からしても、大きさからしても、師匠の作ったものとはレベルが違う。


  (こんなに凄い魔法を使える人、今まで見たことない)


  彼の魔力はこの国でも随一だろう。それに対して、エリーズは魔法を使うことができない。自分の武器は、本当に今両手で握っている剣だけなのだ。

 

  彼と戦ってから初めて、死の恐怖を感じた。


  エリーズはこちらへ向かってくるドラゴンに斬り込んだ。二回、三回、四回目でやっと、動きを鈍らせる。


(こいつはきっと、アレクサンドルよりも実力が上だ)


  この世界の大魔法士より魔力が高いとなれば、そりゃ国王軍も敵わないだろう。


  そのまま近くの木を駆け上がると、その頂上から飛んで、空中で体を捻り、ドラゴンを頭から突き刺した。

  しばらくしてからあの森での日と同じように、魔法のドラゴンはパラパラと綺麗な光になって消えていく。

  新たに魔法が使われていないか注意して着地した。


「魔法を、斬った!?」


  彼が驚愕したような表情で言った。やはり、今までエリーズの様に、剣で魔法を斬るものなど、いなかったらしい。


  エリーズは、満面の笑みを浮かべると言った。






「だって私は、剣術チートな"悪役令嬢"なんだもの」


(こういうセリフ、一回言ってみたかったんだよなぁ)

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