25. 聞きたいことがある

 ふっと浮かび上がる意識のままに瞼をあける。ぼやけた視界がだんだん像を結び、傍らにいる人物を写し出した。


「レオン?」


  名前を呼ぶと、ベッドの横の椅子に座ってうとうとしていた彼は、勢いよく顔を上げた。


「ベルナールさん!」


  そのまますっくと立ち、ばっと頭を下げる。九十度のやつだ。


「大変申し訳ない!」


  お辞儀をしたままの姿勢で彼は言った。切実さが滲んだ声で、何だかこちらが逆に申し訳なくなる。


「いや、全然大丈夫。頭を上げて」

 

  慌ててベッドの上で体を起こした。階段から突き飛ばされたことはぎりぎり覚えているから、おそらく彼はその事について謝っているんだろうというのは分かる。けれど、あれはたぶんどうすることもできない類のものだ。彼が悪いわけじゃない。それに、エリーズは第二王子の婚約者、という肩書きから、こういうことはことは珍しくなかった。

  体を起こすと、周りの色々な景色が見えてきた。どうやらここは、私の部屋のようだ。おそらく眠っているうちに、学校から家まで運ばれていたんだろう。


「いや、俺のせいで。ちゃんと見ていればこんなことにならなかったのに」


「でも私、大怪我したりしたわけじゃないんでしょう?」


  先程から体の節々が痛かったが、特に大きな痛みはなかった。たぶん全部打ち身ですんでいる。


「けど……」


  口ごもる彼に


「それに私、肩書き的にこういうことはよくあるから」


  ね? と笑ってみせると、彼は渋々といった様子で、椅子に座り直した。

  よく見ると目尻にはクマが色濃く残っていて、少し目も腫れているような気がする。さっき椅子に座りながら寝ていたことだし、相当疲れているんだろう。

  それにエリーズには、彼がそうなっている理由に、心当たりがあった。


「本当にごめん」

 

  しばらく手持ち無沙汰にはくはくと口を動かしたあと、もう一度椅子に座りながら頭を下げ、じゃあ、と部屋を出て行こうとした彼を呼び止めた。


「待って」


  振り向いた顔は、少し強ばっている。私が怒っていると、思っているのだろうか。それとも他の理由?


「話があるんだけど」


「何?」


  彼はベッドに向かって歩いてきて、そのまま椅子に座った。聞く気になってはくれたらしい。


「昼休みに、私カヴァリエ君のこと、呼びに行ったでしょう?」


「あぁ」


「一つ聞きたいことがあったのーーあなたのお姉さんのことについて」


  彼の目が、驚きで見開かれた。

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