19. 今日は精神的ダメージが大きい
アランは結局二時間ほど滞在した後帰ることになった。彼はこの国の第二王子だし、忙しい時間の合間をぬって来てくれたのだろう。彼を迎えに来た車の運転手が、少し慌てた様子だった。
(そういえば、手紙!?)
玄関先で彼に手を振り、後ろ姿を見送った後、エリーズは、神様からの手紙の存在を思い出してはっとした。
(今日のことについて何か指示されてたかな?)
全身に冷や汗が流れる。どくどくと、やたら心臓の動く音が聞こえる気がした。
走りたいのをぐっとこらえ、部屋まで早歩きをする。
あまりに焦って、手紙の存在をバレるといけない。とにかく自分が転生者だとバレそうな証拠は、人に見つかってはいけないのだ。
その点、あの手紙は、この世界に来てからの一番大きな証拠と言っていいだろう。
友達との悪ふざけと言えばそれまでだが、万が一あの手紙を、それこそ魔術師などに持っていかれたら大変だ。一応あの手紙の未来予測は当たっているし、だからこそあれはそこそこの力があると思う。
バン、と勢いよく部屋の扉を開けた。それから慌てて慎重に扉を閉め、ベッドサイドテーブルに置いたままの手紙を手に取った。
(開けるの怖)
ごくり、と唾を飲み込んでから、開けた。なんにしろ、この世界では悪役令嬢にとって、少しの失敗が、バッドエンドへの道を切り拓き、下手したら命取りにもなる。
手紙に書かれている"今日すべきこと"が出来なかったら、明日には死んでいる可能性だってあるのだ。
まぁ、あれがそれだけの信用に足るものか、と言われれば、何とも言えないけれど。
中に入っている手紙を取り出したエリーズは、出そうになる悲鳴を必死で堪えた。
中に入っている便箋は、血に濡れたように真っ赤だったのだ。しかも触ると、少しぬるりとした感触。
(え、なにこれ、どーいうこと!? あれか、時間のリミット過ぎたら読めなくなるやつなのか!?)
なにこれ不気味なんですけどー!? と呟きつつ、手紙をじっと見た。もしかしたら、何か文字が書いてあるのかもしれないと思って。
不意にこんこん、とドアをノックする音が聞こえて、エリーズはブルリと身を震わせた。手に持っている手紙を、慌てて後ろ手に隠す。
「エリーズ」
にこにこ笑顔のお母様が部屋へ入ってきた。これは機嫌が良い時の顔だ。何があったんだろう、と思い、お母様の隣を見たエリーズはぎょっとした。
隣には、ザビエルに北条政子とあと何かを足した感じの男ーーもといエリーズの家庭教師がいた。
「今日は少し早く来てもらったの〜」
(え、この精神状態で勉強しなきゃなの!? え、待って今まじでやばいんだけど、精神的に)
心の中でギャーギャー喚き立てるが、その気持ちを押し殺して、エリーズは引きつった笑みではい、と言った。
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