18. イタズラと微笑み

「それで、レオンは一体何を言っていたの?」


  部屋の中央辺りにある白い椅子に座っているアランに、支度を終えたエリーズは尋ねた。そのままアランが座っている椅子の向かいに自分も座る。


「それが……」


  「紅茶のご用意が出来ました」


  部屋の扉を開いてミアが紅茶を運んできた。匂いからするに、ローズティーだろうか。


「ありがとう」


  ミアは頷くと、そのまま部屋を出ていった。改まってアランに向き直る。


「今朝方レオンから電話がきたんだ」


「電話?」


 あぁ、と頷くと、紅茶を啜る。ソーサーにカップを戻してから、アランは口を開いた。


「エリーズの命が危ないと。できるだけ様子を見ておいてやれ、と何だかすごい切実な声で言われて」


「どういうこと?」


「俺にも分からないんだ。来てみたらこの通り元気だったし」


「別に事件に巻き込まれたりもしてないわよ」


  イタズラだったのかなぁ、とアランが首を捻る。確かにイタズラだと考えるのが一番しっくりくるだろう。もっとも、彼がこんなタチの悪いイタズラをするとは思えないのだが。それをアランも分かっているからこそ、疑問に思っているに違いない。


(でも確かに昨日、やたら気をつけろだとか色々言われたなぁ)

 

  二人してうーん、と悩むが、結局明確な答えは出せなかった。エリーズには心当たりがあると言えばあるのだが、もちろんそれは転生に関わっていることなので、意地でも言えない。


「そういえば」


  アランが悪戯っぽい笑みで言った。彼がそういう笑顔を浮かべる時は、何か彼にとって"良いこと"を思いついた時だ。経験則で知っているエリーズの背中に、冷や汗が流れた。


「この前クルーエさんが上級者達に絡まれていて」


  (え、うそ、この話? でも確かにアランにとって最近一番の事件だったかもしれない)


  騒がしくなる心をよそに、エリーズは驚いた顔で相槌を打った。


「そんなことがあったの?」


「ああ、それで、クルーエさんを助けた男がいたんだけど、そいつが名前も告げないでどこかに言ってしまったんだ」


「そうなの」


「それで、クルーエさんが言っていたよ。"すごくカッコよかったし、名前も聞きたかったのに。助けてくれた後すぐどこかに行っちゃったわ。今度廊下ででもすれ違えないかな"」


(そっちか!)


  予想外の話にエリーズは内心天を仰いだ。まさかこうなるとは思ってもみなかった。


「俺が見た限りでは、栗色の少し長めの髪に、髪と同じ色の目の男だったんだけどね。一度も見たことなくて……エリーズも見かけたら、声をかけてあげてくれないかな」


  エリーズはただ満面の笑みで微笑み、頷くことしかできなかった。

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