9. 今日は厄日

  今日は厄日だ。エリーズは、ナイフを革製の鞘に入れ、鞄に押し込みながら、確信した。

  まず、手紙。不穏な言葉のオンパレードだらけだったし、リルを守る、というそこそこ大変そうな役割を任せてきた割に、時間、場所……必要な情報を何も指定してきていない。

  となれば、こちらでずっとリルを観察し、変装したりするタイミングを測らなければならないことになる。

  それと先程から、エリーズの部屋の窓の正面にある木に真っ黒い烏が止まっていて、その烏がずっとこちらの部屋を凝視しているのだ。


(何なの、あれ。不吉すぎじゃない?)


  烏には悪いが色々な意味で不気味だ。


  変装用のカツラと化粧品を鞄に詰めているところで、馬車に乗る時間になった。不安しかないが、仕方ない。仮病、なんてものはこの家では通用しないのだ。





 *****

  (まさか朝から襲われてる、なんてことはないよね)


「それでアラン様がね~」


「うそ、ほんとに〜?」


  まだ九時であるにも関わらず、キャッキャウフフとやたら甲高い声で、自分の許嫁の噂をするクラスメイトを横目で見ながら、エリーズは教室の中にリルの姿を探した。


  今日はいつもとは違って学校からやや離れた所で馬車を止めてもらい、リルが通学していると思しき道から登校したのにその姿は見当たらず、ついでに教室に向かうまでに校舎裏という校舎裏を探索したが、そこにもいなかった。

  となれば残りは教室、と自分(リルとは同じクラスだ)のクラスに向かったわけだが、何故だかここにもいなかったのだ。


(いつもほとんど教室にいるのに)


 リルは学校生活のほとんどを教室で過ごす。

 というのも、リルは学校側の手違いで入学した、という割に優れた才能を持っており、それのおかげかクラスメイトには立派な生徒として認められているのだ。

  けれどもこの学校全体を見れば、リルが平民であるからか、まだまだアンチリル、という人間はたくさんいる。そのせいで迂闊に教室の外でも出歩いたら、それこそ怖い上級生のお兄さん達から恐喝、なんてことになりかねない。頭のよく切れるリルだからこそ、その辺は十分理解しているはずだ。


(一体どこにいんの? 入れ違い?)


  エリーズは頭を抱えた。朝からずっとそうしている気がするが、仕方ない。そうするしかないのだ。


(何が嫌って、バッドエンドフラグ折れなかったら、もうそれが命の危機に直結してるってことなんだよなぁ)


  何だか色々疲れきり、リルは脱力しながら鞄を机の上に置いた。

 

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