19階層主戦5

「マイロード、今の私ならいけます」


いける? どういう意味だ? ボススライム相手に1人で先行するのはだめだ。『戦乙女の歌』効果を実感して昂っているのか?

ベルリアが『ヘルブレイド』を放つと同時にボススライムに向け駆け出し、マグマ溜まりの手前で飛んだ。


『アクセルブースト』


ベルリアが宙で回転しながらボススライムへと必殺の一撃を放つ。


「ギイイイイイン」


ベルリアの肉切り包丁が火花を散らしながらボススライムを捉える。

回転力の力が刃へと伝わり徐々にボススライムへとめり込んでいく。


「しぶといですね。観念して斬られてください。ハアアアアッ!」


『アクセルブースト』により加速した刃はボススライムの頑強な外皮を突破して身体の一部を断ち切った。

ベルリアがボススライムを足場にしてその場から離脱する。

切り離されたボススライムの一部がそのまま溶けてなくなる。

今までのように分離しなかったのでダメージを与えたのは間違いないが、肉切り包丁の刃はボススライムの核へと届いてはいない。

大ぶりの肉切り包丁をもってしてもボススライムが大きすぎて周囲を削ったにすぎない。

だけど、たしかにいけてる。

『戦乙女の歌』の恩恵を得たベルリアは、ボススライムに対しいけてる。

このまま攻撃を繰り返せば、いける!

ベルリアに斬られたボススライムは、その場から高速で移動して、またその身体を小刻みに震えさせ、体色を変化させる。


「ベルリア、いったん退くんだ」


オレンジ色だったのその色は紫へと変わりそのまま黒に近い濃紫となった。

黒に近い濃紫……。

その色を見るのは初めてだけど、悪い予感しかしない。

紫といえば、もっと明るい色ではあったけどベルリアが酔っ払ってしまったあのスライムの色だ。

同じではないけど、あの時のベルリアの姿が脳裏に浮かぶ。


「ベルリア!」

「お任せください。今の私なら色など関係ありません。このまま無くなるまで刻んでやります」

「いや、そうじゃ……」


俺の言葉を言い切る前に再びベルリアが飛んだ。


「今の私の敵ではありません。『アクセルブースト』」


肉切り包丁がボススライムへと迫り火花を散らした瞬間ボススライムからは濃紫の霧が放出された。

まずい!

あの時と同じだ。


「ベルリア! 離れろ! ルシェ!」

「チッ、バカが! 『黒翼の風』」


黒い風の刃が濃紫の霧を切り裂き吹き飛ばす。

ベルリアは大丈夫か?

前回のように倒れてはいないし、ふらついた様子もない。


「ベルリア?」


呼びかけてみるが返事はない。



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