黒馬死す

巨大な黒馬は五メートルのジャグルを凌ぐ体躯で、俺たちを押しつぶそうとして脚から全速力で『鉄壁の乙女』にぶち当たった。

その迫力に身が竦んでしまったが、光のサークルが不浄なるモンスターを通すことは一切なく、衝突と同時に黒馬の脚は完全に破壊され、光のサークルを飛び越えるようにして地面へと首からダイブし、引いていた戦車も光のサークルへと衝突して激しい音と共に大破してしまった。

当然、座るようにして乗っていたジャグルも前方へと投げ出され、黒馬を飛び越え地面へとダイブし、着地した瞬間、ジャグルの重さに周囲の地面が震え、手に携えていた頭部は二十メートルほど先まで跳ねながら転がっていってしまった。

黒馬は脚を潰され、その場で踠いているが、ジャグルは意識を失っているのかピクリとも動かない。


「ルシェ、もしかして今ならやれるんじゃないか?」

「あ、ああ、うん。やっぱりただの黒豚だったな」


珍しくルシェが戸惑ったような口振りだが、たしかにこの結末は予想外だった。

まさか、あれほどの馬と戦車を呼び出して僅か数秒でこうなるとは思ってもみなかったが、俺たちにとってはラッキーとしかいえない。


「手間をかけさせられたが、これで終わりだ。黒豚にしては偉そうなやつだったけど、さっさと豚の丸焼きになって消えてしまえ! 『炎撃の流星雨』」


再び上空から大量の炎の塊が降り注ぎ、一面が火の海と化す。

踠いていた黒馬二匹はあっという間に炎に飲まれて黒煙をあげ消滅してしまい、その先で動かなくなっていたジャグルにも容赦なく炎の塊が降り注ぐ。

無防備となって晒されたジャグルの黒い鎧も大量の炎の前にして徐々にその姿を失い、剥き出しとなった皮膚が容赦なく焼かれていく。

凄惨な状況にあっても、周囲は焼豚の芳しい匂いが充満している。

絶え間なく降り注ぐ炎にジャグルの肉が徐々に焼け焦げ、その場にはジャグルの骨だけが残された。


「『アクセルブースト』 くっ、刃が通らないとは」

「なぁ、骨って普通燃えるよな」

「そうね、普通は燃えるわね。しかもルシェ様の炎だし。それにベルリアくんの一撃も通じなかったし。だけどあの黒豚も普通じゃなかったじゃない」

「まあ、そうか」


たしかに普通のモンスターではなかったのでミクにそう言われると納得してしまう。


「ここまでやるとは思わなかったぞ」


奥へと転がっていったせいで焼け残ってしまったジャグルの頭部から声が聞こえてきた。

骨が消滅していなかったので、もしやとは思っていたが、この状態でもまだ生きているらしい。

いやデュラハンなら元々死んでいるからその表現も違うのか。

さすがにあの頭部を潰せば消滅するか?

だけど頭蓋骨の耐久性を考えるとルシェの炎じゃ難しいかもしれない。


「ご主人様、あとは私におまかせいただけませんか?」

「ああ、それじゃあお願いしようかな」

「ありがとうございます」


まあ、あの骨がルシェの炎に耐える以上、ここはシルの雷撃に頼るしかない。

俺はシルにジャグルの討伐を託すことにした。

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