みんな揃って

「もしかして、あれって……」

「うん、 間違いなさそうだ。ボス部屋だな」


昨日も結構順調にきているとは思っていたが、どうやら自分が考えていたよりもかなり先に進んでいたようで、今日の探索を終える前に眼前にはボス部屋と思しき扉が現れた。

他のメンバーは前回のボス戦からそれなりに間隔が空いているが、俺は先日ラミアと戦ったばかりなので感覚的には連戦と言っても過言ではない。


「海斗、どうするんだ。このまま入るのか?」


あいりさんが、俺に問いかけてくる。

あいりさんの言葉には二種類の意味が含まれている。

ひとつは言葉通り、このままボス戦へと臨む選択。

そしてもうひとつは、今日はこのまま引き返し来週以降にトライするという選択肢。

今日もスムーズに進んできたのでまだ探索を終えるには早い時間だ。ボス戦に臨む時間的余裕とリソースの余裕はある。

少しだけ引っかかるのは俺自身の問題。

ステータス上は万全だが、ラミア戦での疲労が完全には抜けていないような感覚がまだ少し残っているのと、ボス戦に短期間で続けて臨むという精神的な負荷の問題だ。

気持ちの問題といえば、ただそれだけなのだが、ボス戦では心身共に擦り減る場合が多いので臨むだけで結構なパワーを要する。


「どうした海斗? 今日はやめておくか?」

「あ、いえ、せっかくいい状態でここまでこれたんで、一応入ってみましょう。最悪撤退してもいいですし」


イレギュラーで出られなくなることはあったが基本ボス部屋からの離脱は可能となっている。

やはりここまできてそのまま引き返すという選択肢はない。

ボスモンスターの種類はわからないが、念のためにお祓いグッズも揃えて体勢を整える。


「マイロード私にも聖水をお願いします」

「ああ、これを使ってくれ」


ベルリアにも疑似聖水の入った噴霧器を渡しておく。

今更だけどよく考えたら聖剣どころじゃなく、聖水やおふだを持ったベルリアの違和感がすごいな。

聖水とかは霊的な相手には効果抜群だが、悪魔には全く効果がないようで普通に取り扱っている。

このあたりの微妙な違いは俺にはよくわからない。

悪霊という言葉があるが、文字面だけ見ると悪魔と霊が合わさったようだ。だけど幽霊と悪魔は本質的に違うものなのだろう。

そういえば幽霊になった悪魔はやっぱり悪霊というのだろうか。その場合は聖水が効くのか?

だめだ。

聖水とおふだを手にするベルリアを見ていると雑念が頭を過ぎる。

今はそんなくだらないことを考えている時じゃない。集中だ。

扉の前で準備を整えて、小休憩をとる。


「わたしはボス戦は久しぶりなので、ちょっと楽しみなのです」

「ああ、カオリンはそうだよな」

「この前もカオリンがいればもっと簡単に攻略できてたかもしれないわね」

「このメンバーが揃ってこそのK-12だろう」


あいりさんもいいこと言うなぁ。

カオリンの病気が治って、ようやくみんなでここに臨んでいることを思うと感慨深い。


「それじゃあ、そろそろいこうか」


俺は自分自身に気合いを入れ集中力を高める。

その場から立ち上がり、真っ黒なボス部屋の扉へと手をかける。


お知らせ

4/1発売のモブから始まる探索英雄譚を是非買ってください。

よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る