18階層主

黒の扉は、それほど抵抗感なく開いた。

俺たちは慎重にボス部屋へと踏み込む。

部屋は暗くはないが、壁、床、天井の全てが扉と同じ真っ黒だ。

周囲が黒いだけで妙に圧迫感を感じてしまう。


「海斗さん、海斗さんが部屋と同化してるのです」

「たしかに。同色で保護色みたいになってるわね。黒いマスクを被れば、遠目には見えないかも」

「そんなことはどうでもいいから階層主は?」


カオリンたちの冗談は置いといて今は階層主に集中だ。


「あれは海斗の知り合いか?」

「え? あいりさんなにを……」


あいりさんの指す方を見ると、そこには漆黒の鎧を身に纏ったモンスターが立っていた。

確かに装備の色だけを見れば、俺のものに近い。類似していると言ってもいい。

ただ決定的に違うところがいくつかある。


「でかい……」


まだ階層主まで距離があるので正確な大きさははっきりとわからないが、それでもラミアよりも大きい。

ゆうに五メートルを越している。

そして、もうひとつ。


「あれは豚?」


全身黒い装備の巨人の顔は人のものとは異なり豚の顔をしている。


「もしかしてオーク? だけどオークにしてはデカすぎる」

「顔もオークとは少し異なる気もするな」


十八階層の階層主は全身を漆黒の甲冑に身を包んだ巨大な豚だった。オークとは何度も戦ったことがあるが、それとは大きさも放つ威圧感も全く異なる。


「お前たちが侵入者か! 我の領分に土足で上がるのだ。死ぬ覚悟はあるのだろうな。小さき下等なものどもよ」


突然巨大な豚が野太い声が部屋全体に響き渡る。


「は? 身体がデカいだけのおっさんがなにをデカい態度をとってるんだ。死ぬ覚悟!? そんなものあるわけないだろ。バカじゃないのか? しかも土足で上がる? お前も土足だろう。玄関もないの土足もなにもない。やっぱりバカにつける薬はないな!」

「る、ルシェ!」

「小娘が! 覚悟もなくここにきたのか。まあいい。結果は変わらない。さあ死ぬがいい」

「ああ、結果はかわらないぞ。お前が死ぬんだからな!」

「さすがはルシェ姫。あのようなデカいだけの下郎とは格が違います」


いつになく悪魔二人が、階層主を煽りに煽っている。


「ガアアアアアアアアアア〜!」


巨豚の咆哮で部屋の空気が震え、強烈なプレッシャーが襲いかかってきた。


「あ、あああ……」「ひっ……」

「ミク! ヒカリン!」


くっ、凄い圧だ。

俺はなんとか大丈夫だったが、ミクとヒカリンが黒豚の咆哮に恐慌状態に陥ってしまい、我を失っている。


「ティターニア!」

「マスターわたしにおまかせください。『キュアリアル』」

「あいりさん、二人を後方へ! ベルリアいくぞ!」


先手は巨豚に取られてしまったので、俺はベルリアと共に巨豚の下へと走るが近づくとその大きさがはっきりとわかる。

さっきのがある以上、俺が離れて戦うのは得策とはいえない。


「ほう、動けるか。下賤なる小さき者よ、我の声を凌いだ褒美だ。そら受け取るがいい。『アブソリュートランス』」


巨豚が魔法を発動すると空中に三本の槍が現れ、俺たちめがけて飛んできた。

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