三つ頭のやぎ

高速の弾丸が三つある頭のうちのひとつを撃ち抜く。


「メゼエエェエエ〜」


撃ち抜かれた頭がダランと傾げるが、残りの2つの頭からそれぞれ威嚇音が聞こえて来る。


「ティターニア、そのまま援護を!」

「はい」


全ての頭潰す必要があるのかもよくわからないが、とにかく残りの頭を潰すのが一番手っ取り早い。

俺は踏み込んでバルザードの斬撃を飛ばそうとするが、ヤギの口から先に炎の槍と氷の刃が放たれた。


「魔法か!」


俺に向かってきた炎の槍を咄嗟に身体を横にシフトして避ける。

かなりスレスレだったが耐火マントのおかげでダメージはない。

氷の刃は俺ではない方へと着弾したので、慌てて確認すると隼人が地面に転がっているのが見えた。


「隼人!」

「なんとか大丈夫だ!」


どうやら転がって避けることができたらしい。

この頭、かなり厄介だ。

態勢を立て直してバルザードの斬撃を飛ばすが、斬撃に向けて炎の槍が再び放たれ相殺されてしまった。

ティターニアの一撃であっさりと頭ひとつを潰すことができたので、少しほっとしていたが、完全に甘かった。

やはりこのモンスターは五階層レベルの敵ではない。

明らかにもっと下層のモンスターの力を持っている。


「マスターいきます。『ウィンガル』」


ティターニアが俺に向けてスキルを発動する。

それに呼応して俺はヤギに向かって走り出す。

相殺されるなら近距離から斬り落とすしかない。

俺は放たれた氷の刃を避けながら更に加速する。

ヤギの喉元に向けてバルザードを突き刺し破裂のイメージをのせる。

その瞬間、残った頭から氷の刃が放たれるのが横目に見えた。

間に合わない。

咄嗟にバルザードから手を離し回避動作を取ろうとした瞬間にスイッチが入ったのを感じる。

バルザードを刺したヤギの頭がゆっくりと弾け飛び、氷の刃が俺の首めがけて迫ってくる。

氷の刃に意識の全てを注ぎ、頭ひとつ分だけ必死に身体を沈み込ませる。

絶対に間に合わないタイミングだったが、遅くなった時間の流れを無視するように俺は瞬間だけ速く動く。『ウィンガル』の効果も加わりいつも以上に反応速度も上がっている。

スレスレのところで頭上を氷の刃がすり抜けていくが、まだ残りひとつとなった頭はこちらを向いている。

すぐにしとめなければ次の攻撃がきてしまう。


「海斗〜! おおおおお、唸れ俺の槍の一撃!『必中投撃』」


直後後方から隼人の声がしたと同時に目の前のヤギの頭部に槍が突き刺さっていた。


「海斗! とどめだ!」

「ああ!」


俺は左手に持つ雷の魔刀でヤギの首の斬撃を見舞い、力任せに一気に斬り落とした。

三つ目の頭が完全に破壊されると同時に三つ頭のヤギはその場から消失した。

危なかった。俺一人なら勝てなかったかもしれない。


「海斗、やっぱりまずくないか?」

「ああ、まずいな。この魔核十八層の魔核より大きい」

「やっぱりか。ここは十九階層より下の可能性があるってことだよな」

「もしかしたら五階層なのかもしれないけどモンスターは十九階層より下層のレベルだ。それは間違いない」

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