皮算用

時給百万円で一日八時間作れば日給八百万円!?

片手間の副収入というにはあまりに高額。

もしかして俺は億万長者への扉を開けてしまったのか?


「海斗、悪い顔してるわよ。もしかして聖水で儲けれるとか思ったんじゃないの?」

「い、いやだな〜、そ、そんなことないよ」

「あのね〜、聖水なんかどれだけ需要があると思ってるの? 幽霊系のモンスターと戦う探索者限定よ。しかもダンジョンマーケットで売ってるのに他で買うと思う? 黒い彗星ブランドでも立ち上げる気?」

「ま、まさか」

「命をかけるのに、いくら安くっても得体の知れないものなんか買うわけないじゃない。ダンジョンマーケットは安心のブランド力よ。それが商売ってものよ」


たしかにミクの言う通りだ。いくら安くってもポッと出の一探索者から聖水を買おうなんていう探索者はいないな。

さすがはパパに仕込まれてるだけあってミクの言葉には説得力がある。


「わかってるって。これは自分とパーティ用だから大丈夫だよ。まだまだいっぱいあるからみんでパ〜ッと使おう!」


ミクの言葉で目が覚めた。一瞬甘い考えに支配されて危うく横道にそれるところだった。

俺の本分は探索者だ。深層目指してモンスターを倒し先へ進む!

ただいくらブランド力があるにしても、やっぱり数円で作れる物と同等品が五十ミリリットル二万円は高すぎると思う。

俺たちは気持ちを切り替えて先へと進む。

何度かモンスターとの戦闘になったが、おふだと人工聖水を使いこなす事で戦闘を有利に進める事ができるようになり、当初よりもかなりペースアップする事ができている。


「少しこの階層にも慣れてきたな。やっぱり十八層だけあって手強いな〜」

「いや、まだ序盤だからな。油断は禁物だ」

「わかってますよ。俺が油断したら死んじゃいますからね」

「ところで受験勉強はどうだ? 進んでいるのか?」

「授業は集中して聞いていますよ」

「いや、受験勉強は学校の勉強だけじゃ厳しいだろう。塾に行くなり、過去問に沿って対策をしておくなり準備しておいた方がいいな。そういえば春香も王華学院を受けるんだろう。一緒に受験勉強をすればいいんじゃないか?」

「そうですね。今度春香を誘ってみます」


たしかに受験勉強も大事だ。絶対に落ちることは許されないのだから。


「海斗、そういえば最近春香と遊んでないでしょ」

「なんでそんなこと……」

「それは毎日連絡を取り合ってるからに決まってるじゃない。カフェにも行ってないって泣いてたわよ」

「え!? 泣いてたのか?」

「それは冗談だけど、それぐらいの気持ちって事よ」

「海斗さん、春香さんが可哀想なのです。ほったらかしはいけませんね」

「別にほったらかしてるわけじゃ」

「海斗さん! 嫌われますよ」

「…………」


なぜか突然、話の流れから俺は女性陣に責め立てられることになってしまった。

ただ、たしかに春香と放課後どこかへ行く事がなくなってしまっている。

今度勉強会も含めて誘ってみようと思う。

ダンジョンばっかりになってしまう俺の悪い癖だ。

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