スペクターと聖水

俺の手にある霧吹きから放たれた聖水は、スペクターの半透明な身体全体にかかった。

だが安心はできないので、バルザードを持つ手に力が入る。

聖水Aを浴びたスペクターは、残念なことに特に影響を受けた様子もなく俺に取り付こうとして、ス〜ッと寄ってきた。

俺はバルザードを振るい咄嗟に後方へと飛び退くが、バルザードでダメージを与えることはできなかった。

水道水で作った聖水Aはただの塩水に過ぎなかったようで、スペクターに対し全く効果を発揮しなかった。

おそらく他のモンスターにも効果はないのだろう。


「それなら、こっちだ! くらえ!」


聖水Aが効果がない可能性は折り込み済みなので、俺があせることはなかった。

後方へと下がってすぐにマジック腹巻きから聖水Bを取り出して持ち替えた。

こちらは煮沸した水で作った本命だ。念も一割ましで込めておいた。

俺は迫ってくるスペクターに聖水Bの霧吹きのハンドルを引く。


「ギャアアアアアアア〜」


霧状の聖水Bを全身に浴びたスペクターが悲鳴を上げてその場で暴れ苦しみ始めた。

これは完全に効いている。

俺は暴れるスペクターに聖水Bを更に吹きかけて追撃をかける。


「オオオォォォォ〜」


苦しみと怨嗟を含んだような声をあげてスペクターがその場から消えてなくなった。


「やった……」


聖水Bのあまりの効果に、使った俺自身が驚いてしまった。

下手をすると、スライムに対する殺虫剤ブレス以上の効果だ。

あいりさんを見ると、当然聖水によりスペクターを打ち破り既に戦闘を終えていた。

俺はあいりさんの方へと駆け寄り


「あいりさん、やりましたよ。自家製の聖水で倒すことができました」

「ああ、それはよかったな。所詮あいつらは幽霊だから聖なるものには無力なんだ」

「そうですね」


聖なるもの? 俺の作った聖水Bは聖なるものなのか?

確かに効果はあったが聖なるものとしてではなく、別の要因が作用した気もする。

家の煮沸した水道水と天然塩、それに俺の念。どこにも聖なる要素がない。

ただひとつわかったのは、普通の水道水ではダメだという事だ。

水道水で作った聖水Aは機能しなかった。

煮沸した水道水で作った聖水Bは劇的な効果を発揮した。

あいりさんの聖水も精製水で作っているとのことだった。

つまり、聖水のポイントは水! 精製水に準ずる水であれば聖水の基材として効果を発揮するということだ。

ある意味大発見かもしれない。

同じレシピで大量に作れば、原価数円で凄いことになるかもしれない。


「あいりさん、ダンジョンマーケットの聖水ってどのくらいの値段なんですか?」

「気にした事もないから、それはちょっとわからないな」

「わたしみたことあるわよ。確か二万円ぐらいじゃなかった?」

「二万円……」

「だいたい香水の瓶みたいなのに入ってるわね」

「香水の瓶ってどのくらいの量なんだ?」

「よくわからないけど多分50ミリリットルぐらいじゃない?」


50ミリリットルで二万円!? 

高すぎるだろ。やかんでつくれば一回に1000ミリリットル以上できるんだぞ?

一回で四十万円以上になるのか?

しかも作るのに一時間もかかっていないので時給百万円も夢ではない。

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