泣く女の子
春香には明日にでも声をかけてみよう。一階層へ潜るのを多少減らしてでも時間はどうにかするしかないが、大所帯となった弊害が出てしまっている。探索と実生活のバランスを取るいい方法が何かあればいいけど、色々器用にこなせる方でもないので今はなにも思いつかない。
探索を再開してダンジョンの奥へと進んでいく。
「アンデッドって外国のモンスターばかりなのかな」
「そうね、あんまり日本のモンスターでアンデッドって聞かないわね」
「アンデッドという言葉自体が外国語ですからね。日本のものではないのです」
「やっぱりそうなのかな」
「だが、日本のホラー映画とかでは、不死の幽霊とかが描かれていることもあるからわからないぞ」
「日本の幽霊とかだと黒髪の女性とかのイメージですね」
「昔から柳の下とかに出るイメージだな」
デュラハンなどは完全に日本のイメージは無いが、日本で言えば落武者のモンスターと言ったところか?
「ご主人様、ご注意を。モンスターがいます」
「わかった。みんな気を引き締めていこう」
「言われなくても、いつも引き締めてるわよ」
いや、さっきまでみんなで雑談してたと思うんだけど
そこから進んでいくと鳴き声のようなものが聞こえてきた。
「え〜ん、え〜ん、え〜ん」
この声はいったい……
女性の声か? まさかモンスターに襲われているのか?
足早に進んでいくと、奥に金髪の女性らしき姿が見えてきた。
「こんなところでどうしたんだろう。一人しかいないように見えるけど」
「あやしいわね。絶対なにかあるわね」
「そうですね。こんなところに外国の女の人が一人でいるはずがないのです」
「ああ、随分と古典的な手だな。さすがにこれに引っかかる探索者はいないだろう」
やばい。俺は完全に引っかかりそうだった。本気であの金髪の女性を心配して危うく声をかけるところだった。
「シル、あればモンスターなのか?」
「そうですね。気配は以前のマサンに近いです」
「マサンか。じゃああれは精霊の一種なのか?」
「あれってもしかしてバンシーじゃない?」
「バンシー?」
「女の精霊よ。確か死か死者かを呼ぶんじゃなかった?」
死か死者を呼ぶ? 物騒だな。
「え〜ん、え〜ん、え〜ん」
こちらの声が聞こえていないのか、お構いなしに泣き続けているが、この場合どうするのが正解なんだろうか。
「どうする?」
「もちろん即攻撃なのです。ある意味敵が隙を見せてくれているようなものじゃないですか」
「いやでも万が一モンスターじゃなかったり、良い精霊だったりしたら不味くないか?」
「ありえないのです」
「海斗、ダンジョンの十八階層でそれはありえないわ。お人好しがすぎるわね」
「そうだな。私が攻撃してみよう『アイアンボール』なら頭以外なら万が一の時でもポーションでなんとかなるだろう」
万が一って……なんとかなるのか? ならないと思うけど。
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