第658話 文殊の知恵
これだけ悩んで考えても何も決める事は出来なかったので、もう俺一人では無理だ。
授業が終わって俺はすぐに春香の元へと向かった。
「春香、ちょっと相談があるんだけど」
「うん、それはいいけど、海斗なんか疲れてない?」
「いや、疲れてると言うか、考えすぎて燃え尽きた感じかな……」
「そうなんだ。じゃあ悠美に一人で帰ってって言ってくるね」
「あ〜できれば前澤さんの意見も聞きたいんだけど」
「そう、じゃあ悠美も誘ってみるね」
「ああ、お願いします」
もちろん今回の事はむやみに大勢に話すような事では無いが、今に限っては少しでも信頼出来る人の意見を聞きたかった。
「海斗、お待たせ」
そう言って春香が前澤さんを連れてきてくれた。
「ああ、前澤さんも悪いね」
「高木くんなんかやつれたんじゃ無い?」
「そうかな。まあちょっと悩みと言うか……相談があって」
「春香から聞いてる。で、相談って何?」
どこか場所を変える事も考えたが、既に教室にはあまり人が残っていなかったので、俺の机を囲んで話をする事にして昨日までの出来事を二人に話した。
「そうなんだね。でもそのサーバントカードっていうのは手に入れたんだよね」
「ああ、それはなんとかなったんだけどなぁ」
「まあ、話はわかったけど、私には高木くんが何を悩んでるのかわらないんだけど」
「え……」
「だって、言い方は、あれかもしれないけど、高木くん達はその子の為にそこまでのお膳立てをしてあげたわけでしょ?」
「まあ、そうだけど」
「じゃあ、高木くんの役目はそこまでで終わりなんじゃ無い?」
「いやいや、何を言ってるんだよ。だからオークションも間に合わないしサーバントカードのスキルも不確定だし決めれなくてずっと悩んでるんだって」
「だからなんで高木くんが悩むのかわからないのよ。悩むのはかおりちゃんでしょ」
前澤さんの言っている意味がよくわからない。もちろんカオリンの悩みではあるが、これは俺が決断しないといけない問題だ。
「海斗、あのね悠美は、海斗達がそこまで選択肢を用意したんだから、あと決断するのはカオリンだって言ってるんだよ」
「……え?」
「だってそうでしょ。自分の命がかかってるのよ。どうしてその選択を高木くんがするのよ。どう考えてもかおりちゃんがするべきでしょ。かおりちゃんだって絶対自分で決めたいと思うわよ。もし高木くんが決めて上手くいかなかったらどうするつもり? 責任取れるの? 取れないでしょ」
「まあ、そうなんだけど」
「かおりちゃんだって、そこまでしてもらって、最後の選択を高木くんが間違えたら恨むに恨めないし、絶対に自分で決めたいはずよ。かおりちゃんに聞いてみたの?」
「いや、まだ伝えて無いけど」
「じゃあ、決まりね。かおりちゃんに伝えて決めてもらうのが一番よ」
「海斗、私もそう思う。カオリンが自分で決めるのが一番だと思う」
ずっと俺がなんとかしないといけないという思いだけでやってきたので、二人に言われるまで、全く気がつく事が出来なかった。
カオリンの事をカオリン自身が決める。そんな当たり前の事がわからなくなっていたなんて。
多分メンバーの二人も俺と同じでカオリンへの思い入れが強すぎてわからなくなっていたのだと思う。
「二人共ありがとう。本当に助かったよ。二人の言う通りだ。カオリンに伝えて決めてもらうよ」
まだ何も解決したわけでは無い。だけどカオリンの未来はカオリンが決める。
俺はその手伝いをするだけだ。
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