第618話 GW3日目

今日でGW三日目。

順調にいけば今日にでも十七階層を攻略できるはずだ。

俺の体調はすこぶる良く万全と言っていい状態だ。

春香の作ってくれたカレーが俺の血肉となりいつも以上に調子がいい。


「それじゃあ、今日はできる限り進みましょう」

「そうね。私もプラセンタを飲んで体調万全よ」


言われてみるとミクの顔の肌艶がいいような気がする。

もしかしたらプラセンタとやらの効果なのかもしれない。


「私も薙刀を入念に手入れしてきたからな。万全だ!」


三人ともがいつも以上に気合が入っているので、俺はいつも以上に俯瞰してダンジョンと状況を見るように意識する。

はやる気持ちと調子の良さが、前のめりになってしまうことだけは避けるように意識しながら進む。いつも以上に冷静に沈着にだ!


「今日のご主人様は、いつも以上に調子が良さそうですね。表情からもそのことが見て取れます」

「あの、にやけた顔は確実に、昨日なにかあったな。あの感じはまず間違いなく春香だろうな」

「やはり、そうなのですね。いつになく表情が明るいので、よほど良いことがあったのかもしれませんね」

「まあ、今日はボス戦も控えていることだし、勘違いさせといてやればいいだろ。それにしてもあのにやけた顔見てるだけで焼きたくなるな」


いつものようにシルとルシェがコソコソ密談しているが、雰囲気であまり良い話題でないことは感じ取れるので、完全にスルーして前に進む。


「海斗! 昨日の夜はどうだったのよ」

「昨日の夜?」

「しらばっくれてもダメよ。春香がご飯を作りにきたでしょ」

「なんで知ってるんだよ」

「それは、春香と私が友達だからよ」

「ああ……」


女子高生のネットワークは俺が思っている以上に速度も規模もすごいのだということは理解できるが、昨日の今日でどこまで知ってるんだ?


「それでどうだったのよ」

「どうって、カレーを作ってくれて、おいしかったよ」

「それで?」

「それで? それから探索の話とか受験の話をしたけど」

「それで?」

「それから家に送って行ったよ」

「それだけ?」

「それだけ? 他になにかあるのか?」

「は〜……海斗、昨日家にご両親はいなかったのよね」

「そうだけど」

「高校生の男女が、誰もいないひとつ屋根の下にいてカレーを食べて真面目な会話をして終わり?」

「そうだけど……」


ミクとの会話を進めているうちに、さすがの俺でもミクがなにを言わんとしているかは理解できてきた。


「普通、高校生の男女がひとつ屋根の下にいたら、あれとかこれとかあるでしょ」

「ミク……あれとかこれとかって?」

「普通押し倒したり、ガバッといったりとかあるでしょ」

「……いやないよ」

「海斗は春香のこと好きなんでしょ」

「まあ、そうだけど」

「じゃあ、あるでしょ」

「いや、ないでしょ。というかないです」

「は〜……海斗」


ミクがこちらにあきれたような表情を向けてくるが、どう考えてもこれはおかしい。

いかにも俺がやってしまったというか、意気地がないというような感じを全面に押し出してくるが、事実は違う。

ミクの言っている事は恋人同士の話だ。

実際には俺は春香の彼氏でもなんでもない。

さすがに、ただのお買い物仲間とは言わないが、仲の良い友達といったところだ。

その俺が、春香の昨晩カレーを堪能して、会話を楽しんで家まで送った。

どこにもおかしいところはないと思う。

春香だって楽しそうにしていたんだ。

ミクに俺が意気地なしのように思われるのは心外だ。

むしろ紳士的だと褒めてくれても良いぐらいだと思う。

まあ、あの状況で勢いに任せて告白する勇気はなかったけど。

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