第619話 トラフィックライト
メンバーと会話しながらも着実に十七階層を進んで行き、難所である砂嵐エリアは抜けている。
「そういえば、あいりさん薙刀の手入れをしたっていってましたけど自分でしてるんですか?」
「当たり前だろう。武器は己の魂ともいえるものだからな。自分の手で入念にしないと安心できないんだ」
「じゃあ研いだりもできるんですか?」
「勿論だろう。刃を研がなければどんな業物もすぐになまくらと同じになってしまうからな」
「コツとかってあるんですか? DVDを見て自己流で研いでるんですけど、DVDは刀なんですよね。バルザードとちょっと違う感じなので、今のやり方があってるかどうかもわからないんです」
「コツはないな。ひたすら数をこなすしかないだろう。私も魔剣の研ぎ方はよくわからないが、今度砥石を持って来れば見るぐらいはするぞ?」
「本当ですか? それじゃあ、さっそく明日持ってきますね」
ダンジョンマーケットのおっさんから貰ったDVDには九十分間ひたすら職人のお爺さんが刀を研いでいる場面が収録されていた。
はしおりながら三本の刀を研いで仕上げる映像が収められているが、レクチャーっぽいものは何もなく淡々と研ぐシーンが続いている。
途中で砥石が変わったりするので、数度見返してなにをやっているのかは理解できたが、これを買う人はなにを目的に購入しているのかわからなかった。
おそらく素人の俺には理解できない真髄を見て楽しむマニア垂涎のDVDなのだろうが俺には難易度が高すぎた。
見よう見まねでバルザードを日々研磨しているが、あいりさんに教えてもらえるならこんなにラッキーなことはない。
その後も緊張感を保ちながらも、メンバーと他愛のない話をしたりしながらドラゴンとの戦闘を繰り返し更に奥へと進み、既に昨日のマッピングポイントを超えて探索を続けている。
「ご主人様、敵モンスターが三体います」
「それじゃあ、十七階層ももう少しで終わるはずだ! 慎重にいこう」
マッピングの状況を見る限り、かなりダンジョンの奥まで来ているのは間違いない。
臨戦態勢を整えて進んでいくと、そこには赤いワイバーンと青い水竜そしてついに黄色のドラゴンが一体ずつ待ち構えていた。
冗談で赤、青、黄色とは考えたけど本当に出るとは思わなかった。
「あいりさん、少しくすんでますけど黄色ってなに属性だと思いますか?」
「見た目ではわからないな。特に臭いを発しているというわけでもなさそうだ」
「そうですね」
正直初見の黄色いドラゴンの属性がわからない以上極力遠慮したい。
この場所で変な臭いがついても、今更引き返すことはできないので大惨事になってしまう可能性がある。
ただ、他の二体との相性を考えると、シルとルシェ以外が黄色のドラゴンを担当する方が合理的だろう。
俺は覚悟を決めて指示をだす。
「シルは青をルシェは赤だ。ルシェ『黒翼の風』だぞ!」
「わかってるって。馬鹿にすんなよ!」
「残りのメンバーで黄色にいきましょう。ミクとスナッチは状況に応じて援護を!」
俺の声と同時にシルが青いドラゴンへと向かっていった。
俺もあいりさんの後ろについて走りだす。
「海斗! いつものことだから意図的ではないと思うが、あの初見の黄色を前に私の後ろにつくのはなぁ……私だって臭いのは嫌なんだぞ?」
「あいりさん……すいません。初見のドラゴンなので気配を極力薄めて望んだ方がいいと思って」
「それはわかっている。わかっているが、あの色を前にすると最悪の状況をイメージしてしまったんだ」
あいりさんの言っていることはよくわかる。俺だって同じ気持ちだが今からあいりさんの前に出て戦うのは得策ではない。
決して相手が黄色いからじゃないんだ。
お知らせ
9/30発売のモブから始まる探索英雄譚5のカバーイラストが公開になりました。
近況ノートに載せているので見てください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます