第617話 春香のカレー
「いただきます!」
目の前のテーブルには春香が作ってくれたカレーが鎮座している。
今日も一日ダンジョンを歩き回ったのでお腹はぺこぺこだ。
スプーンを手に取ってカレーを口の中へと誘う。
う、うますぎる!
「うまい!」
ひと口食べただけだが、濃厚な中にも甘みと旨味が凝縮しており、とんでもないうまさだ。
「よかった。海斗がカレーが大好物だっておばさんから聞いてたから」
「うん、カレーは好きだけどうちの母親は……」
「どうしたの?」
「最近、週末はとりあえずカレーを出しとけばいいやみたいな感じがあって」
「もしかして、もうカレーは十分だったりしたのかな?」
「いやいや、春香のカレーは全くの別物だよ。今までこんなにおいしいカレーは食べたことがないよ。うますぎるよ」
「うれしいけど、褒めすぎだよ。ルーはおばさんが買っておいてくれた市販のルーを使ってるんだから」
このカレーがいつも母親が使っているのと同じ市販のルー?
嘘だろ?
全く味が違う。完全に別物だ。
母親のカレーは所謂いつもの味で、まあおいしい味だ。ただ今食べているカレーは、どう味わってみてもいつもの味ではない。
有名チェーン店のカレーを遥かに上回り、街の洋食屋さんのカレーも完全に凌いでいる。
俺のカレー人生の中で間違いなくナンバーワンだ!
しかもダントツでだ。
「いや、本当においしいんだ。おいしすぎてスプーンを動かす手が止まらないよ」
「大袈裟だけど、海斗が喜んでくれて、うれしいよ」
「それにしても春香が夕食を作ってくれてるとは思わなかったからびっくりしたよ。いつから来ることになってたの?」
「え〜っとね、多分5日ぐらい前にママから言われて」
「そんなに前から? 言ってくれればよかったのに」
「おばさんが、海斗へのサプライズだから絶対に黙っておいてって」
「ああ、それでか……」
確かに特大のサプライズだった。
母さんグッジョブ。
「よかったら、まだおかわりあるよ」
「じゃあ、いただきます」
一杯目のカレーを平らげた俺は、春香に二杯目をもらう。
二杯目を口に入れてもやはりおいしい。
全く飽きのこない深い味わい。ピリッとした辛味が食欲をそそる。
この味なら、いくらでも食べることができそうだ。
味わいながら食べていると、あっという間に二杯目も完食してしまった。
「海斗、すごい食欲だね。よかったらもう一杯食べる?」
「ああ、お願い」
普段母親のカレーは一杯しか食べない。それなのに春香のカレーはいくらでも食べられる。
ただ既にお腹がかなり膨らんでいるのはわかる。
残念だが、これ以上食べると明日の探索に響きそうなので三杯でやめておこう。
さすがに階層主を前に腹痛を起こしたりしたら洒落にならない。
「あ〜おいしかったよ。ごちそうさま」
「お粗末さまでした。喜んでもらえてよかった」
「まさか春香の手料理を食べられるとは思ってもなかったから、おいしいというかうれしかったよ」
「今度は海斗の誕生日に作ってあげるね」
「うん、楽しみにしてます」
その後、春香とダンジョンの話や、受験の話をして過ごしたが、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまい、気がつくと時間は二十一時になってしまっていたので、春香を家まで送ることにした。
「今日は本当にありがとう。じゃあまた学校で」
「うん、明日からも探索頑張ってね」
春香と別れて、来た道を引き返して家へとついたが、先程まで春香がいた家は一人になってしまうと、少し寂しい感じがしてしまった。
ただ今回スターリゾートはそれなりの金額かかってしまったが、こんなサプライズがあるなら安いものだ。
こんなことなら、またしばらくしたら両親に長期旅行をプレゼントしてもいいかもしれない。
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