第592話 氷の盾
俺の放った魔法は、氷の薄い盾。
以前色々試したうちのひとつだが、実戦での効果は非常に薄いのでほとんど使う事のなかった形態だ。
薄い氷の盾をベルリアの眼前に出現させてゆっくりと前方にいるであろうドラゴンに向けて移動させるように放つ。
氷の盾は守備範囲が狭く強度もモンスターの攻撃を凌ぎきるには弱すぎる。
だが、氷の透明であるという特性と砂を防ぐ盾ぐらいにはなる大きさを備えているので、ベルリアの視界を確保する助けにはなるはずだ。
「ベルリア!」
口に砂が入ってくるのでベルリアの名前だけを呼び、俺の意図を伝える。
はっきりとはわからないがベルリアも氷の盾のスピードに歩調を合わせたように感じるので俺の意図は伝わったのだろう。
氷の盾が着弾するまでは、全身にブレスレットの呪いによる拘束がかかっているので後はベルリアに託すしかない。
既にベルリアの姿も完全に見えなくなってしまったが、微かに剣戟の音だけが聞こえてくる。
どうやら無事ドラゴンの下までたどり着いたようだが、直後に俺の身体を拘束していた呪いが解けた。
『ダブルアクセルブースト』
俺の拘束が解けるのとほぼ同時にベルリアのスキル発動の声が聞こえてきた。
氷の盾により視界が開けたので二刀に戻したのだろう。
氷の盾の消滅と同時に勝負をかけたのが声からわかるが、見えないのでどうなったかわからない。
その後数秒経過すると、俺を襲っていた眼前の強烈な砂嵐が弱まり、少しだけ視界が開けたので。
「マイロード、ご助力ありがとうございます。刀の錆にしてやりました。マイロードの盾でドラゴンの直前まで視界を確保する事ができたので、難なく倒す事ができました。うっ……ペッ、ペッ、ペッ」
ベルリア、ドラゴンを倒せて嬉しいのはわかるが、そんなに喋ったらそれは、口に砂も入るだろう。
シルはどうなった?
視界不良で全くシルの動きは見る事ができていなかったので、再び即席ゴーグルを左目に当てて周囲を見回してみるが、もう一箇所あったはずの砂塵の濃い場所は既に消失していた。
どうやら既にシルが倒してしまったらしい。
大きな声をあげる事もできないので、ベルリアに魔核の回収をさせてから、シルがいるであろう方向にあたりをつけて向かう。
「ご主人様」
「シル!」
すぐにシルを見つける事が出来た。
「大丈夫?」
「はい」
「神槍?」
「はい」
「敵は?」
「いません」
砂対策で最低限の会話を交わして、他のメンバーの下へと引き返す。
「勝った」
「ああ」
「厳しい」
「うん」
「ドラゴン風強い」
「了」
ほぼ単語だけでメンバー間での意思疎通が取れているのが自分でもすごいと思う。
これまでのメンバー間での信頼関係の構築の成果がここで現れているようで密かに嬉しい。
あいりさんが「了」と答えたのはギャップがあって、ちょっと笑いそうになってしまった。
案外高校生の時は今とキャラクターが違ったのかもしれない。
いずれにしても、この砂嵐エリアはかなり厳しい。
単純に俺達の準備不足だ。
視界を確保する為のゴーグルと砂塵を防ぐマスク的なものがないと、まともに戦闘する事すらままならない。
ただ、ここで引き返してしまうと、今日はここまで戻ってくる事が出来なくなってしまうので、このまま進む事にする。
結局この日の探索では砂嵐のエリアを抜ける事は出来なかったが、戦闘にはルシェも引き連れて、火力で押す事にし、ベルリアには優先的に氷の盾を付与する事にして乗り切った。
今回俺は前衛職というよりも付与魔術師のような立ち位置に徹する事となったが、みんなに大きな怪我なく探索を終了する事ができたので、俺も役目を全うできて満足だ。
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