第422話 カメラ

回転が止まり刺さった剣を持ったままの状態でベルリアが宙に浮いている。

刺さった剣を抜こうとしているが、思ったよりも深く切り込んでいるようで、足場のない状態では抜ける気配が無い。


「ベルリア!剣を捨てて下がれ!」

「マイロード、ですがこの剣は……」

「急げ!」


ベルリアが渋々手を離した瞬間、亀の爪がベルリアのいた空間を切り裂く。


「ベルリア下がれ!」


ベルリアと入れ替りで俺とあいりさんが前に出る。

頭の出入り口の部分にベルリアの剣が刺さっているので、頭を出すことは出来ないようだが、気配が分かるのか俺達の方に反応を見せる。


「あいりさん、甲羅が思ったより硬そうなので、足を狙いましょう」


ベルリアの大回転斬りが途中で止まるぐらいなので、胴体の部分を普通に斬っても切断までは至らない気がする。

あいりさんが薙刀で足の部分を狙って斬りつけたが、その瞬間巨体が宙を舞った。


「嘘だろ」


見えないはずなのにタイミングよく飛び上がって、そのまま手足を引っ込めたかと思うと横回転し始めて、空中でコマのように回り始めた。

巨体が回ることで、かなりの風圧を巻き起こしているが、単純に危なくて近づく事が出来無い。

回転しているので、甲羅の隙間が見えない上にこのサイズの回転に巻き込まれて無事でいれるイメージが全く湧かない。


「あいりさん、どうしよう」

「これは、直接攻撃は無理だろう。少しひいて魔法を打ち込んでみる」

「わかりました。お願いします」


回転に巻き込まれない様に、2人でその場から一歩引いてあいりさんが魔法を放つ。


『アイアンボール』


かなり近距離から放った鉄球は相当な威力を持って、回転するカメラに命中したもののそのまま弾かれて俺の1M程脇を飛んで行った。


「あぶなっ!」


あの鉄球が当たったらただでは済まない。俺の顔や大事な部分に命中していたら即死していたかもしれない。

怖い……


「海斗すまない」

「あいりさんのせいじゃ無いですけど、回転する相手に使うのはもうやめましょうね」

「そうだな。分かった」


この距離からドラグナーで撃てばいける様な気もするが、鉄球同様はね返されたら怖いので撃つ勇気が持てない。

理論的には浮いているので下に潜り込んで回転している中心をつけば倒せる気がするが、1発で倒せなかった時にあのサイズの物が上から降ってきた時のことを考えると、悪い予感しかしない。

潰され無い為にはカメラの上から攻撃するしか無いが、硬い甲羅が障害となる上に回転するカメラの上でずっと留まる事は不可能なので、やるなら一撃必殺で決めるしか無い。

そもそもこの位置から飛んだのでは俺の跳躍力でカメラの上を取るまでには届かない。


「カオリン、踏み台が欲しいからカメラの手前に『アイスサークル』を頼む」


待っていても状況は好転しないので一気に勝負に出る。

カオリンがカメラと俺の間に氷の土台を出現させてくれる。

しっかりと意図が伝わった様で普段の氷柱を横に倒した様な形で魔法が発現した。

これならいける!


俺は、全速力で氷の土台に向けて走り出した。

上方に意識を向けてジャンプする軌道をイメージしながら氷の土台に足をかける。

一瞬氷の上を滑る様な感覚があったが、そのままの勢いで足を運ぶ。

1歩、2歩、3歩目で踏み切って上方にジャンプしようとしたが、3歩目で踏ん張りが利かなかった。


「あっ!」


氷の土台は新調したブーツのゴム底が滑って上方に行く力を生まずに、慣性の法則を最大限発揮した形となり、そのままの勢いで思いっきり前方に飛び出してしまった。

焦っていたのかもしれない。当然考慮すべき事だったとは思う。

ただ今この時にそこまで頭が回っていなかった。そもそもブーツで氷上を走った事が無かったので、危機感が薄かった。

今はそれが理解できるが、理解出来た時にはもう遅かった。

今俺は慣性の法則を全身で体感している。



あとがき

ヤングチャンピオンコミックス モブから始まる探索英雄譚1をよろしくお願いします!

皆さんのおかげで2/18日のコミックPOSランキングで65位にランクインしました。

購入いただいた読者の方はありがとうございます!!

ちなみに1位は同日発売のキングダムです。

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