第423話 異変

「あっ!」


慣性の法則を全身で体感している今この時に誰かの声が聞こえて来た。

俺も同じく「あっ!」と声をあげたが、周りからも全く同じ声が聞こえてきた。

どうやら、この場面であげる声はみんな同じらしい。

どこか冷静に他のメンバーの声を聞く自分がいるが、今の自分の状況には全く余裕は無い。

慣性の法則に則って、猛烈に押し出されるというか滑ってしまい身体の自由が効かないが、それも刹那の出来事に過ぎなかった。

氷の土台は僅か数メートルなので一瞬で俺の足下からは無くなり、その瞬間俺は足場の無い前方へと押し出された。

今度は自由落下の力に従い、下方向にも引っ張られて、図らずも回転するカメラの下側に飛び込む形となった。


「うっぶ」


地上に放り出された瞬間、重みと痛みが加わって動きを止めてしまうが、今置かれている状況は分かっている。

痛みを我慢して身体を起こし上を向くと、上方を巨体が高速で回転している。

動きに変化が見て取れないので、もしかして俺の状況を把握出来ていないのか?

この巨体が俺の身体にのしかかって来ると言う最悪のイメージが頭を過ったが、そのイメージを振り払いバルザードに賭ける。

一撃で仕留める!

もしダメなら『愚者の一撃』を追加する!

確実に仕留める為にバルザードの一撃にのせるイメージは切断ではなく破裂。

バルザードを両手で持ち直して、全力で上方にある回転の中心に突き入れる。


「ギョリッ」


硬い抵抗を感じたが力を強めて突き入れる。


「うぅおおお〜!」


回転の中心部分に突き入れたので大丈夫かと思ったが、そんな事は全く無く突き入れた瞬間に回転による遠心力の影響を受け、振り飛ばされそうになったのでイメージを強めてバルザードに伝える。

遠心力に耐えきれずバルザードの持ち手を離した瞬間にカメラが爆散した。


「やった……」


一瞬の攻防だったが、終わった瞬間カメラを倒した喜びよりも疲労を感じてしまった。


「危なかったな………」


自分の浅慮が原因とはいえ危なかった。たまたま上手くいったが、もう一度同じ事をやれと言われてもやれる自信は全く無い。

手強かった……


「海斗さん。すごいです。以前飛んだのに匹敵する凄さです。人類の可能性を感じる勝利でした」

「冷静に考えると氷を足場にするっておかしいわよね」

「それは今だから言える事だろ。あの時はこれしかないと思ったんだよ。カオリンだって何も言わずに『アイスサークル』で氷を出しただろ」

「海斗さんに言われるまま出してしまいました。あの時は何の疑問も持ちませんでしたが、海斗さんが駆けて行くスピードを見た瞬間に危ないかもとは思いました」

「普通はあのスピードで躊躇無く氷に向かって行くのは無理だろう。ある意味勇気がいる事だな」

「それって褒めてるんですか?」

「もちろんだ。結果としてカメラも海斗が1人で見事撃退した様な物だしな」


まあバタバタしたけど倒した事に間違いは無いので、その場に座り込んで一息つく。


「あ〜全身疲れた。次からカメラの対策が必要だな」

「また海斗さんが同じ事をすればいいんじゃ無いですか?」

「うん、無理」

「海斗〜。わたしかシルが一撃かましてやればいいだけだろ」

「まあそうなんだけど」


1番手っ取り早いのはルシェの言う様に2人に一撃で仕留めてもらうのが1番良いのだろうが、他のメンバーの底上げには全くならないので考えものだ。

腰を下ろして、今後のカメラ戦をどうしようかなと考えながら、何気に手元のバルザードに目をやる。


「ん?」


いつもの見慣れたバルザードだが一瞬違和感を覚えて、刃の部分をよく見てみる。


「ああああ〜!」


よく見るとバルザードの刃先の部分が一部欠けていた。


あとがき

サポーターさんへの感謝にサポーターさん限定公開SSを書きました。題名はドラゴンステーキです。

近況報告で読めます。よろしくお願いします。


ヤングチャンピオンコミックス モブから1をよろしくお願いします。

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