第407話 濡れガラス

もう一刻の猶予も無い。

ベルリアは頼りにならない。

足が燃えてしまう前に自分でどうにかするしか無い。

俺は覚悟を決めて、しがみつく様に両手で持っていたロープから片手を離してバルザードを素早く構えて足首を持っている腕をめがけて斬りつけた。

鈍い抵抗感があり、その抵抗が無くなったと同時にそれまで感じていた重みが無くなり、俺は一気に安全地帯まで引き上げられた。

慌てて後方の沼を見るが、モンスターが燃え上がりながらも沼から這い出て来ようとしていた。


「ルシェ焼き払え!いぞげ!」

「わかったよ。しぶとい奴は嫌いじゃ無いが燃えて無くなれ『破滅の獄炎』」


ルシェの獄炎がモンスターを包み込み完全に消し去る事に成功した。


「助かった………。何だったんだあれ。あれってグールなのか?」

「グールって言うより化け物でしょ」

「あれ幽霊じゃ無いですか?すごく怖かったのです」

「私も動けはしたが恐怖を感じる相手だったな」


見た目と登場の仕方もホラー映画さながらで恐ろしかったが、見た目以上に精神にダメージを受けた気がする。得体の知れない恐怖感を覚えてしまったので、もしかしたら精神系の恐怖を与えるスキルを発動していたのかも知れない。


「マイロードご無事で何よりです。もう少しこちらに来れば刀の錆びにしてやったのですが」

「ああ、そう……」


罠の探知も含めて今回は全く役に立たなかったな、ベルリア。

とにかく助かって良かったが掴まれていた足首が痛い。


「ベルリア、念のために治療を頼む」

「はい、お任せください『ダークキュア』」

「みんなありがとう。本当に助かったよ」

「ロープ持っといてよかったわね」

「ああ、やばかった。罠には要注意だ。以前くらった電撃に次ぐやばさだった」

「海斗電撃のトラップにかかった事あるの?」

「あれは死ぬかと思ったよ。完全に意識が無くなったし。なあルシェ」

「こ、今回はわたしのせいじゃ無いからな。それにあれはまだダンジョンに慣れてなかったんだ」

「まあ、そう言う事にしとくけど、カオリン泥を落としたいんだけど『ウォーターキューブ』を頼んで良いかな」

「はい」


沼に引き込まれたせいで胸から下がドロドロなのでカオリンの魔法で洗い流してもらう事にした。

水の塊りの中に自分から飛び込んで汚れを洗い流す。


「ふ〜っ、これで綺麗になったかな」

「…………」


みんなの反応が薄い。まだどこか汚れているのか?


「どうかした?後ろとかまだ泥が残ってる?」

「いえ、泥は綺麗に落ちてるのです。ただ………」

「海斗、お前臭うぞ!臭い」

「えっ!?」

「ヘドロ臭い。腐った匂いがする」


カオリンのおかげで沼の泥は綺麗に落ちたようだが臭いまでは落ちていないようだ。


「………みんな申し訳ないんだけど、今日はこれで切り上げても良いかな」


今日はもう少し先まで行く予定だったので、みんなには申し訳ないが、他のメンバーも臭いが気になったのか、それがいい是非そうしようと全員が賛同してくれた。

『ゲートキーパー』を発動して1階層のゲートまで飛んだが、移動の時に手を繋ぐのを一瞬躊躇されてしまったのが思いの外ダメージ大だった。

このままロッカーに戻す訳にもいかないので、ビショビショの状態で家に帰ったが装備と合わさって流石に目立ってしまったので周囲の視線が痛かった。もしかしたら臭いも伝わってしまっていたかも知れない。

家についてから装備を風呂場で脱いで洗濯洗剤を多めに振りかけて何回も洗い流してみたが、なかなか臭いは取れない。

明日もダンジョンに潜るのでどうにかして臭いを取らなければならないので消臭剤を買いに行く事にしたが、片側のブーツの底が溶けて変形してしまったので合わせて買いに行く事にした。

今日は大変な目にあったので明日からは気をつけて探索を進めていきたい。

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