第406話 沼からホラー
俺の足が悲鳴を上げている。
そして俺の腕も悲鳴を上げている。
みんながロープで引っ張ってくれているが、俺の体には凄い荷重がかかっており、特にロープを掴む手と、得体の知れない物につかまれている俺の右足が悲鳴を上げている。
「大分抜けてきた。あと少しだ頑張ってくれ」
あいりさんが俺の声をかけてくれるが、俺はロープにしがみつくのに必死で余裕が無い。
そこから更にひっぱってもらい膝まで出る事が出来たので後もう少しだが、遂に俺の足を掴んでいる奴も一緒に出てくるはずだ。
「もうすぐです」
「ああ」
カオリンに声と共に遂に足首の所まで抜けたが、掴まれている所に目をやると、泥に塗れてはっきりとは分からないが、人型の手のようにも見える。
ベルリアが臨戦態勢を整えて他のメンバーが更に力を込めて引っ張ってくれる。
「きゃ〜!」
「ひっ!」
カオリンとミクの悲鳴が聞こえた瞬間俺も息を呑んで強張ってしまった。
俺の足に連なって現れて来たのは、泥に塗れた腕とそしてドロドロの長い黒髪。
手の感じから人型なのは予測出来ていたが、現れたモンスターは想像していた以上に人型だった。
ドロドロのロングヘアーの女性だったはずのモンスターが現れた。
全身が現れたわけでは無いのではっきりとは分からないが、恐らくグールか何かのモンスターだと思う。
沼の中から黒髪の人型モンスターが現れる様は、まさにホラー映画そのものだ。
しかも掴まれているのは俺の足なので気が気では無い。
「べ、ベルリアッ!早く斬ってくれ」
「マイロード、残念ですが完全に沼地から上がって来なければ切れません」
「なにをっ……ミクッ頼んだ。スピットファイアで焼き払ってくれ!」
「で、でも」
「いや、でもじゃ無いって。やってくれ。やって下さい。俺が、俺の足が〜」
俺の必死のお願いにも拘わらず、ミクは顔が引き攣ってスピットファイアを撃ってくれない。
シルとルシェは平気のようだが、この2人のスキルは完全に俺も巻き込んで焼き払ってしまいそうなのでダメだ。
「私がやろう」
「お願いしますっ!」
あいりさんから天の助けが聞こえて来た。
『アイアンボール』
あいりさんからモンスターの頭に向けて鉄球が放たれた。
「グシャッ」
潰れる音がして完全に仕留めたかと思い、足下を見ると俺を掴んでいたのとは逆の腕で、鉄球を防いでおり、腕は損傷しているものの、モンスターは未だ健在だった。
「ミク〜ッ!」
やはりゾンビ系のモンスターは物理攻撃にはかなりの耐性を持っているようなので火だ。火しかない。
俺の悲痛な叫びが届いたのか引き攣った顔は変わらないもののミクがスピットファイアの引き金を引いてくれた。
火の弾がモンスター目掛けて飛んでいき、先ほどと同じように破損した腕で防いでこようとしたが今度は防いだ瞬間に引火したようで、モンスターの腕が燃え始めた。
「ギイイイイイィイイ〜」
今まで聞いた事の無い叫び声を発して、腕をバタバタしているので効果があったのは間違いないが未だ俺の足を持つ手を放してくれない。
このままでは俺にまで引火してしまう。既に俺の下肢はかなりの熱を感じておりこのままではやばい。
「ミク、頭だ。頭を狙ってくれ!」
「わ、わかったわ」
意を決したミクが再びスピットファイアの引き金を引き、今度は両手を使えなくなったモンスターの頭部に火球が見事命中した。
「ギイイイイイィイイヤ〜」
再びこの世のものとは思えない叫び声が上がり、今度は髪の毛にも引火して一気に頭部が燃え上がった。
片腕と頭部が盛大に燃え上がっているが消失には至っておらず、まだ俺の足首は掴まれたままだ。
しかも頭部が燃え上がったせいで、余計に火力が増してブーツの裏が猛烈に熱い。
これ完全に靴底が溶けて来ている気がする。
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