第405話 沼の中

「う〜っ。全く抜けそうに無い。悪いけどロープで引っ張って助けてくれ〜」


本来であれば沼に沈んでいくという絶体絶命のシチュエーションだが、今の俺に焦りはない。

以前隠しダンジョンに落ちた経験からマジックポーチを持つ3人にロープを常備してもらっていたからだ。


「それじゃあ行きますよ〜」


カオリンがマジックポーチからロープを取り出してこちらに向かって放り投げて貰うが、俺の体は既に腰のすぐ下まで沈んでしまっているので余り猶予は無い。

目の前に投げられたロープを掴み


「それじゃあお願いします」


ロープを持ったカオリンが頑張って引っ張ってくれるが予想通り全く動く気配は無いので、ミクとあいりさんも加わって引っ張ってくれる。

3人で引くと沈下は完全に止まり徐々にではあるが引き上げられて来ている。


「コンッ……」


ん!?気のせいか?

微にだが何かが足に触れたような気もするけど、沼の中に石でも混じっていたのか?

少し気にはなったが、今はそれよりも抜け出す事が大事なのでロープをしっかり掴んで力を込める。


「ゴンッ………」


おかしい。完全におかしい。何かがあたった。さっきは気のせいかと思ったけど、今度は完全に何かがあたってきた。


「お〜い。なんかおかしい。何か居るかも。早く引っ張ってくれ!」

「何かって何よ」

「分からないけど足に何かがあたって来たんだ」

「沼の中にサメでも居るのか?」

「あいりさん怖い事言わないで下さい。ベルリアも手伝え」


ベルリアも加わった事で一気に浮揚感が増したのでもう大丈夫だろう。


「うわっ!」


そう思った瞬間右足首を何かに掴まれてすごい力で引っ張られた。


「やばい!やばい!何かに掴まれた!足が足が………掴まれた〜!」


恐らく見えない敵。ダンジョントラップの全く中が伺い知れない濁った沼。その中から突然何かに足を掴まれて下に引っ張られる。

言葉には出来ない恐怖を感じてしまう。


「沼に引き摺り込まれる〜!」



俺の異変に気がついたメンバーも先程までの安穏とした顔ではなくなり、必死でロープを引いてくれるが、残念ながら引き込む力の方が強いようで、だんだん沈みこんでしまっている。


「シル、ルシェも頼む!やばい!」


沼に引き摺り込まれるって何かのホラー映画のようだが、引き込んでいるのは恐らくモンスター。そしてこのドロドロの沼に引きずり込まれたら間違いなく死んでしまう。

俺は今ホラー的要素と命の危険を感じて、かなり焦っている。周りからどう見えているか分からないが、見た目以上に余裕が無い。

助けてくれ〜!


シルとルシェも加わった事で、再び沈下が止まり浮遊に転じたが足が痛い。掴まれた部分が猛烈に痛い。足が取れる!


「痛いっ!足が……」

「そのぐらい我慢してください」

「そのぐらいって、足が取れる………」

「海斗さん。大丈夫です。人間の足はそんな簡単に取れません。しかも海斗さんはレベル補正でステータスもアップしてるんです。絶対に取れません」

「そうかも知れないけど痛い………」


カオリンの言う事も分かるが、痛いんだ〜!なんか股関節が引っ張られてミシミシ言ってる気がする。


「ううっ〜」


痛みに耐えながら全身に力を込めてロープにしがみつくが徐々に引き上げられていく。一時胸の辺りまで沈んでいたのが今は腰の辺りまで浮き上がってきている。

ただ未だに足ば沼の中で動かせ無い上に上半身もロープにしがみつくので精一杯なので完全に身動きが取れない。


「あと少しですよ。頑張って下さい」

「多分俺の足にモンスターが付いてると思うから、俺を引き上げたらすぐに攻撃を頼んだ!」

「マイロードお任せください」


沼地なのでベルリアの直接攻撃よりもミクに狙い撃ってもらった方が良い気もするが、この際どっちでもいいから早く助けてくれ〜。

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