第367話 きたる時

俺は今14階層を進んでいる。

カオリンに全てバレた上で大見得を切ってしまったが、その日の探索がその後大きく変わることは無かった。

もちろん気にはかける様にしているが、モンスターを相手にそれほどの余裕がある訳でも無く、カオリン自身も十分に戦えているので、今までと何も変わらない探索となった。

何となく申し訳無い様な気持ちになりながらも、探索は順調に進んでいるので15階層に到達するのもそう遠くは無いと思う。

16時になったので探索を切り上げて解散する事になった。


「海斗さん。ありがとうございます。気持ちが楽になったのです。でも希望を持たせたんですからちゃんと責任取ってくださいね。私、大人になっても生きていたいです」

「え?責任……。もちろんだ。任せとけ!」


カオリンは落ち着いた様で良かったが責任……。

まあ、言われなくても霊薬は必ず見つけるので大丈夫なはずだ。


次の日学校へ登校すると真司と隼人が声をかけて来た。


「海斗、抜け駆けして、葛城さんにホワイトデーのお返ししたんだってな」

「ああ、抜け駆けした訳じゃ無いけど、その場の流れでな。前澤さんから聞いたのか?」

「そうだよ。前澤さんのハードルが一気に上がっちゃったんだけど。どうすればいいんだよ」

「別に好きなもの贈ればいいだろ」

「いや、お揃いの指輪送ったらな………」

「お揃いってわけじゃないんだけど。俺のはレジストリングだし」

「いやそれでも似た感じの指輪贈ったんだろ。しかも左手の薬指にだよな」

「えっ?左手?そうだったかな。お店で俺の指輪と同じ方にはめてもらった様な……」


そういえば特に気にしていなかったが、言われてみるとマジックリングは左手にはめているので春香にも左手にはめてもらった気はする。


「海斗〜。お前な〜、本気で言ってるのか?前から天然な所はあると思ってたけど、ここまでか」

「ありえないだろ海斗今すぐ死んだほうがいい。左手の薬指だぞ薬指。そこまでやって意味わかってなかったのか」

「え…………。俺……やらかしたのかな?」

「は〜、これだから超絶リア充も納得だよ」

「普通はありえないけど、良かったんじゃないか」


真司達に指摘されて今気がついたが、左手の薬と言えば、婚約指輪とか結婚指輪をはめる指か………

俺は一体なんて大胆な事をやってしまったんだ。


「どうしよう。俺やばいかも………」

「いや、やばくはないと思うぞ。葛城さん喜んでたみたいだしな」

「確かに喜んではくれたと思うんだけど」

「俺の想像を超えてたよ。海斗がついにやったと思ったらやらかしたんだったとは、思いもしなかったよ」

「あ〜やばい。俺、春香に謝った方が良いかな」

「馬鹿につける薬はないな。謝ってどうするんだよ。むしろ正々堂々左手の薬指に贈ったんだって言っておけは良いに決まってるだろ」

「そうだぞ、謝って良いことなんか何も無い。絶対に間違いだったとか葛城さんに伝えるなよ。取り返しのつかない大変な事になりかねないぞ」

「そうかな。2人がそこまで言うなら分かったよ」


春香の事は気になるが2人がここまで必死に止めると言う事は、このままにしておかないとまずい事なのは流石に俺でも分かる。


「それにしても、このぐらい天然でやらかすぐらいの方が良いんだな。真似しようとして真似できる事じゃ無いけどな」

「俺にもこのナチュラルな鈍感力が欲しい。これさえ有れば俺も女の子にガンガンいけてたはずだ」

「隼人、大きなお世話だ。それより真司も指輪贈ってみたら良いんじゃ無いか?」

「無理無理。俺の今の状態で無理だろ」

「いや真司案外有りかもしれないぞ。海斗がそれでいけてるんだから天然なふりして渡しちゃえば良いんじゃ無いか?」

「指輪か〜。俺買った事ないんだけど」

「俺だってないけど、どんな事だって初めてはあるだろ。今度一緒に買いに行くか」

「え?隼人も買うのか?」

「いや俺は義理チョコだから、お返しはお菓子ぐらいにしておくよ。きたる時の為のシミュレーションをしについていくだけだ」


隼人の春はまだまだ先な気がする。隼人が想定しているきたる時は今の調子ではいつまでも来ないんじゃないだろうか。

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