第366話 trust me
俺は今14階層を進んでいる。
「ミクさん、海斗さんが何かおかしく無いですか?」
「え?何が?」
「咳をちょっとしただけなのに、血相変えて『大丈夫か!』って変じゃ無いですか?」
「あ〜まあ、考えすぎじゃない?海斗はいつも変だからいつも通りなんじゃ無い?」
「そうですかね。絶対おかしいのですよ」
「カオリン考えすぎじゃない?海斗は特に何も考えて無いと思うわよ」
ダンジョンを進んでいると後方でカオリンが難しい顔をしながらミクに話しかけているのが見て取れた。
どうしたんだカオリン。体調でも悪いのか?
あまり見た事の無いカオリンの表情に心配が増す。
「どうしたんだカオリン、やっぱり体調がすぐれないのか?今日はもう引き返そうか?」
「やっぱり変です」
「え?何が?やっぱり体調がおかしいのか?」
「いえ海斗さんが変です」
俺が変?以前も突然同じ様な事を言われた気がするが毎回軽くショックだ。
「あの、変ってどの辺りがでしょうか?」
「さっきから変です。咳1つで血相変えて心配したり、今も何でも無いのに体調が悪いのか?って絶対おかしいです」
なんて鋭いんだカオリン。絶対ばれて無いと思ったのにばれてる………。
「い、いや〜インフルエンザが流行ってるから………もしそうだったら大変だなと思って」
「咳だけでインフルエンザですか?」
「今年のインフルエンザは咳が酷くなるって聞いたから………」
「もしかして海斗さん聞きました?」
「へっ?な、何をかな」
「パパが連絡したんですね」
「ぱっ、パパ?カオリンのパパが俺に一体何の用があるんだよ」
「以前念のために連絡先を教えていたのですが、連絡したんですね」
「い、いや〜。そんな事は………」
「したんですね」
もうだめだ。カオリンはすべてお見通しだ。全部バレてる。
「…………はい」
「そうですか。それじゃあ心配するのはやめてください。私大丈夫なので今まで通りでお願いします」
「………………ごめん。それは出来ない」
「どうしてですか?」
「カオリンの身体の事を聞いて、俺には今まで通りには出来ない」
「普通にしていて欲しいんです」
カオリンの気持ちは痛いほどに分かる。今まで通りに接して欲しいと言う気持ちは良くわかる。
漫画の主人公でもここは今まで通りに接するよと声をかける所なのだろう。
でも……………
「俺には出来ない。カオリンの身体の事が心配なんだ。俺のできる限りフォローをしたいし気にもかけるよ。俺のわがままだけど、俺はこれからは目一杯カオリンの事をサポートしながら探索していきたいと思ってる」
「そんなの、私唯の足手纏いじゃ無いですか」
「いやそれは違う。俺たちはパーティだろ。この前俺が因果律の話をしたらカオリンも俺の事見捨てるわけないって言っただろ。俺だってカオリンの事を見捨てるわけがないだろ。足手纏いだって思うわけがないじゃないか」
「それは……」
「俺達は同じ因果律の中にいるんだ。だから将来カオリンはパーティに絶対に必要になるって事だよ。だから必ず霊薬は見つかる。いや必ず俺が見つけて見せる。だから安心していいんだ。今まで1人で悩んで頑張ってきたのかもしれないけど、俺一応パーティリーダーだろ。メンバーの世話ぐらい焼くよ。迷惑でも焼くに決まってるだろ!」
「海斗さん……」
「だから今まで通りは無理だ。今まで以上にカオリンのサポートをしながら探索を一緒に続けたいんだ」
「そうよ。海斗が1人でらしくないこと言ってるけど私達パーティでしょ」
「ミクさんも知ってたんですか?」
「すまない私も海斗から……」
「あいりさんもですか?」
「俺達みんなでパーティだろ。誰も欠けちゃだめなんだ。絶対に欠けさせない。だからカオリン1人でがんばらなくていいんだ。みんなで頑張ればいい。俺がもっと頑張るから大丈夫だ」
「…………………ずるいです………」
「えっ?」
「海斗さんなのに………ずるいです」
「たまに柄にもなくかっこいいこと言うわよね」
「そうだな。たまに言うな」
柄にも無くって自分でも分かってるけど、俺の思いが溢れてしまった。
俺の英雄願望が疼いてしまったのかもしれないが、全てを知った上でカオリンを今まで通りに扱う事は俺には出来なかった。
「ふぅ〜うぅぅうぅううう〜。私だって……私だって怖いんです。ううううぅ〜本当は怖いんです。霊薬なんか本当は見つからないんじゃないかって。もう少ししたら私死んじゃうんじゃないかって………うううぇえ〜ん」
「大丈夫だ。今日からは絶対に大丈夫だから。怖がる必要なんか無い。俺が約束する。何があっても何をしてでも絶対に見つける。もう心配ないんだ」
「私も手伝うから大丈夫」
「海斗がここまで言うんだ。安心していいと思うぞ」
「ふぅうううう〜。はい………」
「もう一度言うよ。約束だ。もう大丈夫だ」
「はい。ありがとう……ございます」
盛大にバレてしまったが、この約束だけは絶対に守る。何があっても守ってみせる。
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