第294話 草トレント
俺は今13階層で交戦中だ。
戦い易いと思っていた13階層だが、今は何か得体の知れないモンスターに襲われている。
姿も見えないし、あいりさんが受けた攻撃の種類もはっきりとはしない。
「海斗、どうするつもり?」
どうすると言われても敵の正体がわからない以上、対応を思いつく事が出来ない。
「う〜ん。どうしたらいいだろう」
「海斗、馬鹿なのか?敵がわからないんだったら一面燃やし尽くせば問題ないだろ」
「まあ、確かにそうだけど」
「それじゃあ、わたしがやってやるよ。まかせとけ」
一見無茶苦茶な提案だが、ルシェの言う事も無視出来ない。
「わかったよ。それじゃあ、それで頼んだ」
「隠れてても焼けば出てくるだろ『破滅の獄炎』 こっちにはいないのか?それじゃあ、そっちか?『破滅の獄炎』」
ルシェが『破滅の獄炎』を連発した瞬間、それは動き出した。
なんと地面から生えていた草が動いて逃げ出した。
草?草が動いた。草と言うか背の高い雑草だが、もしかしてこれがモンスターの正体か?
確かに木のモンスターがいるのであれば草のモンスターがいても不思議では無い。
木と草の違いはあるが分類すると、これもトレントの一種かもしれない。
完全に雑草と化していたので全く気づかなかった。所謂擬態していたのかもしれない。
基本動かず、来たものを攻撃する。今までのモンスターとは違い、完全に待ち受け型なのでまんまとその作戦にハマってしまった。
ただ草トレントの誤算は俺達には規格外のサーバントがいただけだ。
逃げ出した草トレントをよく見ると小さな目と口が見て取れるが、本当によく見ないと気付かない。
必死で逃げる草トレントに向かってカオリンが『ファイアボルト』を放つと、着弾と同時に一気に燃え上がって消滅してしまった。木と草の違いはあれど、やはり炎が特効らしい。
あと一体いるはずだが、同じ様な雑草がまだ何本か残っている。
「よしルシェ、今度はあっちの草に向かって頼む」
「よしあっちだな」
ルシェが雑草に意識を向けて『破滅の獄炎』を放とうとした瞬間、今まで全く動きを見せなかった雑草が全速力で逃げ始めた。
自分の生命の危機を感じたのだろう。だがそれは悪手でしか無い。完全に丸見え状態だ。
「馬鹿じゃ無いのか。所詮草だな、逃げたら狙うに決まってるだろ『破滅の獄炎』」
逃げる草トレントの背後からルシェの『破滅の獄炎』が炸裂してあっという間に消え去ってしまった。
正直炎が特効の草トレント1体には獄炎は完全にオーバーキルだった。
「シル、反応はどうだ?」
「大丈夫です。さっきので全部です」
「良かった。それじゃあ注意しながら戻ろうか」
帰る途中で足止めされたので、魔核を回収して再び12階層に向かって歩き出そうとすると
「海斗、お腹が空いて死にそうだ。忘れてるだろ、早くくれよ」
「私もお願いします」
今度はルシェとシルに足止めされたが、こればっかりは仕方が無い。
2人にしっかりスライムの魔核を渡しておく。
「うん。満足だ〜」
「ありがとうございます。おいしかったです」
まだはっきりとは分からないが、この階層は植物系モンスターのエリアなのかもしれない。
まあ12階層同様、魔法を使ってくるので細心の注意を払う必要がある。
特に精神系の魔法を連続で使われると冗談抜きで全滅する可能性がある。
俺達のパーティの場合は状態回復が出来るベルリアがいるので、ベルリアさえ大丈夫であればなんとかなるだろうと思う。
ベルリアが精神系魔法で一瞬でやられてしまう事は想像出来ないので、多分問題ないだろう。
そこからは急いで引き返して10階層でシャワーに入ってから帰ったが、家に着くと母親に
「またシャワーに入って来たのね。いい匂いね。今度お風呂セット持って行ったら?買っておいてあげるわよ」
と言われてしまった。俺の母親はそんなに気が回るタイプでは無かったと思うのだが、折角くれると言うなら今度から持って行って使ってみようかな。
あとがき
今日からモブから始まる探索英雄譚のコミカライズ2話が掲載のどこでもヤングチャンピオンが配信になります。よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます