第295話 春香とカメラ

俺は今春香と写真を撮っている。

春香と写真を一緒に撮る約束をしたものの、土日はダンジョンへ潜らないといけないので、春香に相談した結果放課後に写真を撮る事にした。

ちなみに俺には写真撮影の趣味は一切無く、今までスマホ以外での撮影もした事が無い。

しかも残念な事に写真を撮るような機会はあまり無くスマホでも撮影した事が殆ど無い。

今まで俺には一緒に写真を撮るような相手と場面が極めて少なかったからだ。


「それじゃあね、今日は、夕暮れ時の写真を撮ろうと思うんだけど良いかな?」

「もちろん良いよ。春香にお任せするよ」


そう言って2人で撮影ポイントまで移動した。

日が落ちるのも早いので学校から近くの少し高台になっている所まで2人で並んで歩いたが、このシチュエーションはまるでデートのようだ。俺はカフェの時とはまた違った感じで、結構ドキドキしながら歩いているのだが、春香は何も感じていないのだろうか?

この笑顔を見る限りいつもと変わらないように見えるので、俺一人で舞い上がっているのだろう。


「それじゃあこの辺りでいいかな」


そう言って春香が鞄から取り出したのは、結構大きな一眼レフと呼ばれる本格的なカメラだった。


「春香、本格的なんだな。俺もっとコンパクトなデジカメをイメージしてたよ」


完全に意表を突かれてしまった。てっきりスマホの延長線上にあるコンパクトなデジカメでもっとライトな感じでパシャパシャ撮るものだと思い込んでいたが、思いの外本格的なものが出てきた。

写真撮影が趣味とは聞いていたが、思っていたより全然本格的な趣味だったようだ。


「うん。最初はコンパクトカメラで撮ってたんだけど、段々もっと上手く綺麗に撮りたくなって来ちゃって、お小遣いを貯めて買っちゃったんだよ」

「そうなんだ。でも俺そんな本格的なカメラ使った事ないから、撮るの無理じゃないかな」

「大丈夫だよ。殆ど自動で撮れちゃうから、少し教えればすぐに取れるようになるよ」


そう言われて、春香から撮影のレクチャーを受ける事になったが、これがまた俺には刺激が強すぎた。

当たり前だがカメラは1個しか無く画面も1つしかないので、レクチャーを受けている間中、春香の手が触れたり、身体が近づいたりして俺の精神衛生上良くない状態がしばらく続いた。

何とか、カメラの使い方も聞いてはいたが正直それどころでは無い。

今まで学校でもこんなに近くにいた事は無い。

俺、臭く無いだろうか?昨日、今日と変な物食べてないよな。それより汗の匂いとか大丈夫か?

春香は……いい匂いがする。やばい俺変態みたいだ。でも……いい匂いがする。

春香の手に触れたのは小学校低学年以来だと思うが、こんなにも可憐で柔らかだっただろうか?

よく白魚のような指とか比喩するが白魚どころでは無い。金魚……いやそれはおかしいな。魚では表現出来ない。絹のような、マシュマロのような、美術館の彫刻のようなとにかく、今まで見た中で1番素晴らしい手だ。まあ、俺も今まで人の手を気にした事など余り無いので、もしかしたら女の子の手はみんなこんな感じなのかもしれない。そういえばパーティメンバーの手も余り観察した事が無かった。

とにかくこのマシュマロのような素晴らしい手であれば、素晴らしい写真が生まれるのも当然な気がする。


「それじゃあ、私が試しに撮って見るから一緒に見ておいてね」


まだ目的の時間では無いが練習の為に春香が写真を撮ってくれる。


「カシャ、カシャ、カシャ」


写真が連写される音が聞こえてくるが、春香の撮影している様を斜め後ろの近距離から見る、写真を真剣に撮っている春香はすごく良かった。

撮影しているのは春香だが、できる事ならこの瞬間を俺が写真に収めたいぐらい様になっている。

ボーっと春香が写真を撮っているのを眺めていると今度は俺の撮影する番になったのでカメラを受け取るが、かなり重い。いくらオートとはいえ俺にきちんと撮れるだろうか?

頑張って、何とかいい写真を撮ってみたいものだ。


あとがき

HJ文庫モブから始まる探索英雄譚1〜2をよろしくお願いします。

2はまだ新刊コーナーに並んでいます。

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