第164話 蟻地獄
俺は今砂に飲み込まれようとしている。
「ルシェ、足元に向かって『破滅の獄炎』を放てるか?」
「バカ、そんなことをしたらお前が丸焼きになるぞ。丸焼き海斗だぞ。」
おおっ、また海斗と呼んでくれた。感動だ。感動だが、やばい。
「ウォーターボール」 「ウォーターボール」
魔氷剣に重ねがけをして魔氷槍に変化させ足元をとにかく突いてみた。
砂の中をブス、ブス、と刺していくが手応えがない。もっと深いところにいるのかもしれない。
そうこうしているうちに、砂の円が大きくなり始めて、底の方を見ると蟻地獄が大きくなったようなモンスターが待ち構えている。もがいてみるが、下方向へ流される方が早い。
今度は槍の突撃を飛ばしてみたがやはり砂が邪魔だ。パーティメンバーも上から攻撃してくれているが、やはり難しいようだ。
『暴食の美姫』を使うか?ただあれは、あまり使いたくはない。他の方法はないか?
「おい、そろそろやばいぞ。なんか考えろよ。」
「わかってるよ。ちょっと待てって。」
「いざとなったら『破滅の獄炎』使うからな。」
「いや、ちょっと待て。使ったら俺丸焼けになるんだよな。勘弁してくれ。」
どうする。
「シル『戦乙女の歌』を使ってくれ。」
頭の中にシルの歌声が聞こえてくる。高揚感と共に力が湧き上がってくる。
そのままルシェを砂地から引っこ抜いて思いっきり、上方にぶん投げた。それほど上方には持ち上がらなかったが、ルシェ自身の能力がアップしていたこともあり、上のメンバーの力を借りでどうにか脱出できたようだ。
次は俺の番だ。みなぎる力で目一杯抜け出そうともがいてみたが、やっぱりダメだ。もがいて片足が抜けそうになると今度はもう片方の足が更にめり込もうとする。まさにアリ地獄。
俺だけ抜けれない。
切羽詰まって余裕がなくなってしまったので綺麗事を言っている場合ではない。このままだと食われてしまう。
「シル、一旦送還するから、再召喚したら俺の所から敵に向かって『神槍』を叩き込んでくれ。」
「かしこまりました。お任せください。」
俺はシルを一旦カードに戻してから、再召喚をかけた。
目の前に現れたシルが神槍を発動する。
「我が敵を穿て神槍ラジュネイト」
中心部のモンスターまで急下降して一気に消滅させたが、モンスターの消滅と共に流砂の流れが止まった。
助かったようだが、とりあえず
「る〜シェ。お前のせいでまた大変な事になったんだけど、どういうつもりだ?」
「いや、とっさにな、目の前の物を掴んだだけだ。まあ大丈夫だったんだからいいだろ。」
「なにを言っているのかな?お前のせいで俺飛べなかったんだけど。おまけに俺だけ抜け出せなかったんだけど。」
「そ、それはお前が鈍いからだ。重いから沈んだだけだろ。」
「そもそもお前のせいで死にかけるのこれで何回目だと思ってるんだ?」
「はじめて、いや、2回目だったかな。探索に危険はつきものだろ。」
「いや、もっといっぱいだ。探索に危険はつきものだが、お前のお陰で危険が増してるんだ。今回はさすがにお仕置きするぞ。」
「ひっ。お仕置きってどうするつもりだよ。」
「お尻ペンペンするぞ。」
「いやだ。変態。スケベ。絶対いや。」
「嫌がる事をするからお仕置きになるんだ。」
「いやだ。ごめんなさい。助けてください。もうしません。」
「前も同じセリフを言ったよな。」
「ううっ。」
「海斗さん、ルシェ様がかわいそうなのです。そのぐらいにしてあげてください。」
「いや、一度きつくお仕置きしないとこいつはまたやらかす。俺にだけやらかす。絶対やらかす。」
「ううぅ、何回だ?1回だけか?」
「いや10回だ。」
「10回は無理。2回にしてくれ。」
「8回だ。」
「3回」
「6回だ。」
「4回」
「しょうがない大負けに負けて5回だ。」
「ううっ。5回だな。しょうがない。やれよこの変態。」
「ちょっと待て。誰が悪いんだ?」
「ええっと。わたし?」
「そうだよな。俺を加害者の様に言うのはどうなのかな?」
「うう、ごめんなさい。」
「しっかり反省しろよ。じゃあ行くぞ。」
「パチーン」
「ううっ。」
「反省したか?」
「ああもちろん。」
「パチーン」
「悪かったよ。」
「パチーン。」
「ごめんなさい。」
「パチーン。」
「もうしません。」
「本当か?」
「本当です。ごめんなさい。もうしません。」
「反省したか?」
「もう反省。すごく反省。目一杯反省した。」
「よし、じゃあ今回はおまけで4回で終了な。今後は俺を危機に晒す様な事は控えてな。」
「はい、わかりました。」
まあ、今回はちょっとやりすぎたかという思いもあるが、愛する妹のためにも必要な事だったと思う。多分これをやらないと、俺は近いうちにルシェのせいで死んでしまうような気がする。
心を鬼にしてのおしりペンペンだ。本当は心と手がちょっと痛い。きっとルシェはお尻が痛かっただろう。
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