第163話 渇き
俺は今10階層で探索を続けている。
今日が本格的に10階層を探索する初日なのだが、数回の戦闘を経て、既にかなり疲れている。
足が重い。喉が渇く。
マントとヘルメットの効果でかなり軽減しているはずなのに汗が止まらない。
1番の問題は水だ。邪魔にならないレベルでもってこれるのはペットボトル3本程度。既に2本を飲み干してしまった。
他のメンバーはマジックポーチがあるので問題はなく、むしろ俺の分も用意してくれようとしている。
メンバーに頼るのは恥ではない。それは分かっているのだが、俺の中の小さなプライドが邪魔をする。できることならこのくらいは自前で済ませてしまいたい。
1番安いマジックポーチが1000万円程度。今までの稼ぎ全部合わせても足りない。税金と学費は残しておきたい。今度はケルベロスでも出ないだろうか?一気にポーチまで到達できそうだ。
それか、ボロくてもいいから中古って売ってないんだろうか?中古で半額とかないかな?今度ダンジョンマートを物色してみよう。
喉が渇くとそんなことばかりが頭の中をぐるぐる回っている。
「そういえばベルリア、お前戦闘の時、全然移動スピードが落ちないんだけどあれって悪魔だからなのか?」
「いえそうではありません。砂上を走る技術です。足の裏を極力垂直に接地させて素早く動かして砂の影響を受ける前に次の足に重心を移動させるのです。」
おいおい、それって忍者走りみたいじゃないか。俺にはどう考えても無理っぽい。
「ああ、そうなんだ。そういえば、シルも出来るのか?」
「ちょっとやり方は違いますが出来ます。まあ飛んでもいいですし。」
「そうか。ルシェはどうなんだ?」
「も、もちろん出来る。出来るに決まってるだろ。」
「ルシェ、嘘はダメだぞ。嘘は。」
「嘘じゃない。出来る。」
「じゃあ、あっちまで走ってみてくれ」
「う、わかったよ走ればいいんだろ。」
そう言ってルシェが砂に上を走り出したが、普通に遅い。
「どうだ。」
「どうだと言われてもな。出来てないぞ。」
「わたしは前衛じゃないからいいんだよ。走らないから問題ないんだ。」
「ああ、そうか。まあいつものことだからな。頑張ろうな。」
やっぱりルシェは運動が苦手のようだ。平地での戦闘は難なくこなすのに、泳ぎといい今回の事といい親近感がわくので俺としては仲間ができて嬉しい。
「ご主人様、敵です。多分砂の中です。」
またあのミミズのお化けか?
そう考えて足元に神経をとがらせていると、足元の砂が動いた。動いたというか底が抜けたように飲み込まれ始めた。
「やばい。飲み込まれる。みんな逃げろ。」
声をかけると同時に全員飛びのいて足を取られるのを防いだ。
俺とルシェを除いてだが。
俺も声をかけた直後に飛びのこうとしたのだが、何かに引っ張られて飛ぶことができなかった。
後ろから引っ張られて、振り向くとルシェがしっかりと俺のマントの裾を握りしめていた。
「ルシェ、お前何するんだ。飛べなくて飲み込まれてしまうぞ。」
「あ、ちょっとタイミングを逃しちゃって、思わず掴んじゃった。」
おい、なに可愛く掴んじゃっただよ。
「ご主人様逃げてください。モンスターはこの下です。」
そうだろうな。それ以外に考えられないよな。
ただな、シル、もうしっかり足を取られてしまって動けないんだよ。どうしたらいいだろう、なあみんな。
「シル、ごめんちょっと無理。どんどん沈んでいくだけで、上がれそうにない。」
「ご主人様、モンスターが迫ってきています。」
そうだろうね。ちょっとやばいな。ちょっとじゃなくやばいのか?
とりあえず腕は動くので『ウォーターボール』を発動して魔氷剣を作り出して、足元に向かって斬撃を飛ばしてみたが砂に阻まれ効果がなかった。
本気でどうしよう。
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