第107話 先週の出来事

俺は今映画館にきている。

しかも一人ではなく春香と一緒に来ている。

ずぶ濡れでダンジョンを引き上げた俺は、家でシャワーを浴びてから、気分転換に映画を観に行こうとショッピングセンターへと一人で繰り出した。

映画館に行こうとしている最中に偶然、春香に出会ったのだ。

春香は日曜日に両親と買い物に来ているようだった。


「あ、海斗。一人で何してるの?買い物にでもきたのかな?」


「いや、ダンジョンに潜ってたんだけど、ちょっと色々あって午前中で終わったから、気分転換に映画でも見ようかと思って。」


「海斗。映画ならこの前、私を誘ってって言ったでしょ。」


「あ〜。でもあれは社交・・・・」


そこまで言葉を発しかけて俺の口は言葉を発するのを拒否した。また、気温が下がってきている。うっすらと氷原が見えてきた。


「いや、突然、思いついた事だから、春香は忙しいと思って。いや、残念だな〜」


「ちょっと待っててね。」


そう言うと春香は電話をかけ始めた。


「うん、そう。じゃあ夕方にお願いね。」「これで大丈夫。」


「大丈夫って何が?」


「お父さんとお母さんに夕方まで海斗と遊ぶの伝えといたから。一緒に映画見ようよ。」


「お父さんと、お母さん・・・。そう、じゃあ一緒に見ようか。」


「うん。」


なぜか気温が上昇してポカポカあったかい。なんか眠くなりそうな陽気だ。ショッピングモールなので空調は万全だと思うのだが。


映画館まで来たので春香に見たい映画があるか聞いてみる。


「俺、突然思いついたから映画調べてないんだ、何か見たい映画ある?」


「それじゃあ、ポセイドニック観たいな。アジア超大作なんだよ。見たかったんだ。」


「じゃあそれを観ようか。」


開演もすぐだったのでそのまま内容も確かめずにチケットを購入して映画の座席についたが、座席について開演を待っていると、猛烈な腹痛が襲ってきた。うっ。なんだ!?


「開演までまだちょっとあるからトイレに行ってくるよ。」


平静を装いながらトイレに直行したが、トイレついてシートに座った途端、決壊して水難事故の様相を呈してしまった。今日の朝まで全く健康体だったはずなのに、この経験したことのないような腹痛と排出量はなんだ?これはもしかして、あれか。ダンジョンで溺れかけたせいか。ダンジョンで溺れかけて、水をしこたま飲んだ。死ぬかと思うぐらいに飲んだ。あの水が原因か、なんか悪い物でも含まれてたのか。ううっ。

やはり俺は水場が嫌いだ。相性が悪すぎる。お腹が痛い・・・

10分ほど籠っていると全部排出され切ったのか、ようやく腹痛も治った。ちょっと生気が失われた気がするがなんとか復活できたので急いで座席に戻った。


「海斗、大丈夫?お腹痛いの?」


「え。全然大丈夫だよ。映画始まるよ、楽しみだな〜。」


春香が心配してくれているようだったが、タイミングよく映画が始まったので、スルーしておいた。

映画を見始めたが、ちょっと後悔している。どこかで聞いたことがあるようなタイトルに気がつくべきだった。

確かに超大作と言うにふさわしいスケールで、船の中でのラブロマンスを描いているのだが、主人公の周りの人たちが次々に水難事故で死んでいってしまうのだ。

ストーリーは凄くいいし、キャストも俺でも知っているような有名な人ばかりでている。

しかし、このタイミングで水難事故多発映画とは・・・

海の中で溺れる様子も丁寧に描かれており、俺のメンタルが悲鳴を上げている。今日の出来事が思い出される。

映画のような劇画チックな溺れ方ではなかったかもしれないが、スクリーンの中の人たちと自分が重なる。

一体この映画、何回追憶体験させる気なんだ。俺個人に対する嫌がらせのために作ったのだろうか?

2時間50分にも及ぶ大作映画がようやく終わりを迎え


「すっごく楽しかったね。主人公達も最後に結ばれて感動しちゃったね。」


「ああ。そうね。よかったよね。うん。すごく良かった。うん。」


ちょっと青白い顔になりながらも、春香を悲しませるわけにはいかない。


「いや最高だったよね。溺れる演技も真に迫ってたし、素晴らしかったよ。」


会心のアルカイックスマイルで感想を述べることができた。


「今度は、本当に映画行くときには誘ってね。」


一瞬、得体の知れない圧を感じたがきっと気のせいだろう。しかし春香は本当に映画が好きなようだ。今度は水難系以外で誘ってみようかな。

笑顔で別れてから家に帰って、ご飯を食べたらまたお腹が痛くなってしまったので、トイレに篭ってから寝ることにした。

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