第92話 マグロ三昧

俺は今魚と戦っている。

カニ退治を終え探索を再開したが、カニを食べる事が出来なかったのを嘆く間も無く


「キューキューキューキューキュー」


スナッチが今までに無く反応している。


「この反応は普通じゃない。もしかしたら、魚群かもしれない。前回と同じで行くからとにかく弾幕頼むよ。」


全員で距離を取り横並びに並んでモンスターの出現に備える。

突然、黒い核弾頭の様な物体が猛スピードで近づいてきたが、想定外のスピードに圧倒されながらも魔核銃を連射する。

巨大な核弾頭を思わせる黒い物体、これは寿司ネタの王様、巨大化したクロマグロではないだろうか。

以前TVで見た漁師さんのドキュメンタリーに出てきた巨大マグロをさらに倍化させた感じの物体が、強烈な

加速を伴い、群れで向かってきている。この迫力はダンプカーどころではなく、まさにロケット弾そのものを思わせる。

とにかく喰らわないよう連射するしかない。早々に十発撃ち尽くすが前回の反省を生かして、冷静にマガジン交換を行い間髪入れずに連射するが、魚群の数が今までよりも多い。

このマグロを市場に出したら1匹1000万以上するだろうな。1匹ぐらい持って帰れないかな。初セリに出せたら10億は固い、みんなでマグロ三昧だなと考えながら、撃ち続けるが、すぐに銃弾が尽き携帯している最後のマガジンと交換する。

再度、銃撃を始め十発を撃ち尽くす。三十発、全弾撃つのに、おそらく30秒もかかっていないだろう。

ちょっと焦りを覚えながら片手にバルザードを構え、「ウォーターボール」を射出し始める。

当然、魔核銃よりも射出速度が遅いので、だんだんとマグロとの距離が近づいてくるのが感じられる。

ジワリと汗が背筋を伝う。

このまま『ウォーターボール』で凌ぎきるか、魔氷剣にスイッチして、うって出るかどちらか正解か判断できない。

横をチラ見したが当然ミクは離脱しており、スナッチは相変わらずの無双ぶりで、数撃ちには自信があるようだ。カオリンも俺と違ってナチュラル魔法使い少女なので、拘束がかかるわけでもなく、豊富なMPで『ファイアボルト』を連発しており、全く問題ないようだ。

やはり表面上は拮抗しているが、一番やばいのは俺のところだろう。


口早に


「あいりさん、俺がやばくなったら一瞬でいいので位置をかわってください。魔氷剣を出します。」


と告げ、「ウォーターボール」の射出を再開する。

MPの残量を気にしながら射出を続けるが流石にマグロの大群も数が減って来て、まばらになってきた。

ついにMPが残り一発分になったところであいりさんと視線を交わしてスイッチ。


最後の「ウォーターボール」をバルザードから発動。魔氷剣レイピア型を顕現させる。

最近MPをゼロに近いところまで使い切ることがなかったので、久しぶりに猛烈な倦怠感と眩暈に襲われたが以前の特訓で得た、無理矢理動くというナチュラル耐性を発揮して前に出る。

これで20秒間五発分はいける。再度あいりさんとスイッチしてマグロを迎え撃つ。

もう自分のリミットが決まっている事で不思議と覚悟も決まったのか冷静に状況を判断することができた。

マグロの動きは直線的に突撃してくるのみ。タイミングさえ間違わなければ刺すこと自体は問題ない。問題なのは刺した瞬間に爆散させる事。ちょっとでも遅れると刃渡りの1メートル分など一瞬で詰められて俺は天国、いや、ルシェのせいで地獄行きだ。

遂にマグロが向かってきた。タイミングを見計らってレイピア型を突き出すと同時に破裂のイメージをのせる。


「ボフゥン」


あと四発。再度構え直してタイミングを見計らって再度突き出すと同時に爆散。

単純な作業なようだが精神力が削れていくのが自分でわかる。あと三発持つかな。

それからは流れ作業のように3匹を始末した。殆どのマグロは撃退したはずだが、もう俺に出来ることは無い。

その瞬間、不覚にも意識を失ってしまった。


「・・・かいと」 「・・・・大丈夫か?」 「・・・・・海斗さん」


遠くから声が聞こえる。


「う、う〜ん、俺は一体・・・」


気がつくとあいりさんの顔が目の前にあり、頭の下が妙に柔らかい。

こ、これは。


「うわっ、すいません。本当にすいません。」


一気に意識が覚醒して飛び起きた。


「おい、そんなに急に飛び起きて大丈夫なのか?もう少し寝ていても大丈夫だぞ?」


「いえ、もう大丈夫です。本当にすいませんでした。」


「いや、私は何も役に立っていなかったし、海斗は限界まで頑張ってくれたんだから全く謝る必要はないぞ。しかし最後のレイピア5連撃は、みごとだったな。小さい頃から薙刀を習っている私から見ても無駄な力が抜けた見事な刺突だった。まるでアニメのヒロインのようだったぞ。」


アニメのヒロイン・・・

自分でもそうイメージして剣は作ったが、これは褒められているのか?

しかも最後のは、力が抜けても何も、最後の気力だけで動いてただけなんです。


「急に倒れたからびっくりしちゃった。でも倒れるまでに全部のマグロ撃ち落としちゃうんだからすごいよね。」


「いや、すごいのはカオリンとスナッチで、俺は全然。本当に申し訳ない。」


「いえ。すごいですよ。なかなか倒れるまで魔法使える人って聞いたことないのです。大抵の人は魔力が少なくなると、きつくなって使うのやめちゃうのです。」


「いや。単純に魔力量が少ないだけだから。」


褒めてもらってるんだとは思うが、肩身がせまい。


「海斗、一つだけいいかな。一人で潜った時にも魚群に遭遇したって言ってたよね。どう考えても一人でどうしようもないと思うんだけど、どうやって切り抜けたのよ?」


こんな時までミクさん鋭い指摘。


「いや、まあ、それは、ちょっと数が少なかったし、途中で退却したんだよ。ははは。運が良かったのかな。」


「ふ〜ん。そうなんだ。へ〜っ。退却したんだ。」


「うん。そうそう。格好悪いけど退却したんだよ。」


さすがに今日は、もうこれ以上戦う事は出来ないので、地上に戻って来週の約束をして、そのまま家に帰ってすぐに昼寝をしてしまった。

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